◆ある北の日

ながらく空いていた小さな家を買い取り、古くなったところにところどころ手を入れ、なんとか住める状態になった。「まるで庵だよ。まだ若いってのになぁ。」と近所のおじさんは言った。
ここは国内でも有数の豪雪地帯で、デパートもなければイオンモールもない「すじがねいり」の田舎町である。私は仕事の傍ら、小説を書き絵を描いて過ごしている。とうぜん、客人はほとんどない。古びたインターホンが鳴るときは、だいたいAmazonの配達だ。あまりにもAmazonだよりの生活をしているものだから、宅配のおじいさんは新参者の私の顔をすっかり覚えてしまったらしい。Amazonがなにかを知らないおじいさんは「贈り物がたくさんで、あんたはしあわせもんだねぇ。」と笑みをこぼす。届けてもらうものたちはぜんぶ、あとでわたしの口座から引き落とされるのだけれど、おじいさんがとてもうれしそうだったので、黙っておいた。
静寂の中で、積み上がった本を読む。この家は裏道のすみっこに建っていて、交通量はひどく少ない。誰にもじゃまされない神聖な時間を、私は愛している。ふしぎと、東京にいた時よりも頁がすすむ。「なにもない」というのは、やりたいことが見つかったあとは、かえってありがたいことなのかもしれない。
1年にひとりかふたり、客の来る日がある。観光もへったくれもない田舎町まで、わざわざ会いに来てくれる友人たち。私は近くの(とはいっても1,2kmある)直売所に野菜を買いに行き、かんたんな料理をつくってもてなす。友人は、今話題のモンブランを買ってきたと言って包みを広げる。頂点できらきら輝く黄色い宝石が、田舎町に光を灯すような心地がした。不必要に甘すぎず、ちゃんとおいしい。
狭い部屋いっぱいに布団を並べてねむる。ぽつ、ぽつと思い出話をしながら、最近読んだ本の話をして、いま書いている物語のことを話して……そんなふうにしていると、気がついたらねむりに落ちて、朝になっている。すきまを縫ってするどく入ってきた風で目が覚める。ガスストーブを焚き、持ってきてくれた茶をすすりながら、彼女が目覚めるのを待つ。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。こういう生活をしたいです。もっと今を反省して、改善する必要がありそうです。

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