きのうのつづきで、会話のペースについての話題となる。「どうして急に、会話の話題に?」と思われるかもしれない。そこにはきちんと理由がある。

職場の上司と面談をしているとき「みかげさんはたぶん、頭の回転がはやくて、僕が1を話すと3とか4の答えが返ってくるんだよね。」と言われた。1とか3とか4というのは、起承転結をそれぞれ数字に置き換えていただくとわかりやすいと思う。

自覚なく話していたが、思い返すとそのようなシーンは多い。仕事でもプライベートでも、誰かが話し始めたとき、結論で何を言いたいかがわかってしまうので、先にしゃべってしまうことがある。しかし、相手は順を追ってしゃべりたいのか、どうなのか、よくわからないが……順を追って2,3,4……としゃべる。既に自分の頭の中で2,3,4という過程を経ているので、わざわざ反復するのは時間の無駄だ。そんなことをしている時間があるなら、とくに職場であれば……さっと完結させて業務を進めたほうがいいのではないか?会議などに出ると、とくにそう思う。

とはいえ、さいきん職場では1を聞いて頭の中で4が出ても「はい、はい。」とおとなしく聞くことが増えた。1を聞いて4に圧縮してお返しすることが、どうやら喜ばれる場面は少ない。結局わたしが4を話しても2に戻り、3に行き、4になる。わたしが4を話すのは、不要なエネルギー放出なのだ。じぶんが疲れないためにも「はい、はい。」だ。

上司は「決してそれは悪いことではなくて、個々の性質なんだけど、ときにペースを遅くしてみるということも、話し方のテクニックとして持っておけるとコミュニケーションの幅が広がって、いいと思うよ。」と言った。それを聞いてわたしは「そうすることで、ゆくゆくはわたしないしはクライアント、そして会社の財産になるからですね。」と言った。いちおう書いておくが、ここでもまったく悪意はない。また1から4を返してしまったらしい。「そういうところなんだよ。」と上司は笑った。とっさに謝ると「謝ることじゃないんだ。頭の回転が早いのは、むしろいいことなんだから。逆にことばの出るのが遅くて、コンプレックスに思っている職員もいるからね。大事にしてね。」と言ってくれた。

そのときのことを外来で伝えると「社会というものはそういうふうに(要するに、わたし仕様には)できていないんです。」という。これだけ効率を求める現代人が、既にわかっていることを、なぜ順番にしゃべりたいのか。よくわからない。しかも小説などのように過程が必要なものではなく、業務上のやりとりで、である。そこに物語は不要だ。

多くの人は相手の様子をうかがいながら会話をすすめていくという。それはりくつの上では理解できる。しかし、発達障害の人はやや特異なコミュニケーションのパターンを持っているのだという。それは速度でもあり、幅でもあり、深さでもある。早い遅いはひとにもよるそうだが、早すぎることがわたしの特性なのだろう。すると先生がわたしに問うた。

「みかげさんは誰かと話しているとき、相手が自分の言ったことを理解しているかどうか、瞬時に理解できますか?」

回答に窮する。瞬時に?そんなこと、考えたこともなかった。あわてて、わたしと会話してくれる相手の姿を思い浮かべてみる。職場の人、アトリエの人、文芸サークルの人、同居人……おそらくスムーズに返答がくるひとは、瞬時に理解して返しているのだろう。しかし、そうではないひとは正直どうなのか全然わからない。そのときの表情すら浮かばない。

「あんまり考えたことないです。」

先生は、少し考えてから対策を提案してくれた。それは「いくつかのパターンに分けて対処すること」だ。トピックについてよくわかっているひとはシンプルに3や4を、ふつうの人には2あたりから、不慣れな人には1から0.5刻みに、要はていねいに、というふうに、分けるのだ。そもそも相手がどこに属すのかわからないが、こればかりは実際にやってみるしかない。経験値が必要なのですねと言うと先生は、

「たしかに経験値が必要ですが、ちゃんとフィードバックが返ってくる経験でないと、有効に積んでいけません。ですから、自分のコミュニケーションに対してフィードバックをお願いできる相手がいるといいと思います。学校のテストで考えるとわかりやすいかもしれません、ただ解いておしまいでは、成績は伸びない。それと同じです。」

テストの例を聞き、すとんと落ちた。同時にフィードバックをお願いできそうなひとの顔も浮かんだ。「やってみます」と意気込み、診察はおしまいになった。

たまたまその日に同居人が出張から戻ってきたのでこのことを話すと「あー……、」となんとなく察したような顔でリアクションをしてきた。おそらく彼は、1を話してわたしから4を返ってきたとき、瞬時に理解していなかったのだと思う。

読んでくださり、ありがとうございます。ふだんわたしとおしゃべりしてくれる方は、遠慮なくここらへんの不全感をキャッチしたら教えてもらえるとうれしいです。