対人支援のしごとをしている。その実情は同業者や、実際に利用したことのある人でないとイメージがわきづらく、異業種の方からすると「福祉の仕事だし、なんか障害者の人に対していいことをしてるっぽい人たち」というイメージが関の山だろう(じっさい、人に説明をするときにとても難しい)。アウトラインでいえば間違っていないのだが、利用者の人生に関わっていく仕事になるので、実際のところは相当奥が深い。
福祉の事業所を使うとき、支援者は各利用者に対し個別支援計画というものを作る(一部、作らない事業もある)。これは読んで字のごとく「あなたの求めに対してこういった支援を提供します」という計画書である。構造としては以下のようなパターンが多い。
- あなたにはこういった要望があります(未来の展望)。
(例)一般就労で(福祉事業所内ではなく企業で、というようなニュアンスとなる)働きたい。 - あなたの現状はこうです(現在の状況)。
(例)通所日数は2日から4日まで増えたが、一般就労の基準である30時間には達していない。また、病状についても不明瞭なところがあり、不調となるサインがつかめていない。就労場面で求められるコミュニケーションや振る舞いについても、今後身につけていく必要がある。 - あなたの要望を叶えるために、事業所ではこういう方針で支援をします(展望に近づくためのアプローチ)。
(例)医療と連携しながら、体調をみて5日まで活動量を増やしていく。新たにコミュニケーションのプログラムに参加し、自分のコミュニケーションの傾向を把握する。 - あなたが事業所を使い終えたときはこんなふうになっていることを想定しています(未来の姿)。
(例)自分の特性に合った企業で安定した就労ができている。自分の病状や特性について、相手に説明することができる。
本来はもっと具体的なエピソードや分析が入るのだが、ざっくりと表すとこんなふうだ。この計画は3ヶ月や半年ごとに振り返りを行い、計画の立て直しをする。みんながみんな最初の計画通りにはいかないし、事業所を使ううちに新たな側面が見えてきて、変わることもある。
この計画を軸にその人の支援をしていくことになるので、けっこう大切な書類になる。機械でいえば設計図、料理でいえばレシピだ。
計画を作るのには、日々を過ごす中でその人を見ておくことがとても重要になる。併せて、見ているなかで感じる違和感や引っ掛かりを言語化する力が求められる。「あの人のコミュニケーションの仕方はなんか不自然だな」と感じるのなら、何が不自然かを追求しなければならない。「頼んだ業務が遂行できない」のなら、業務のどこで引っかかっているのかを発見しなければならない。漠然と「できていません」では、どうしていけばよいのかという具体的な策を立てられないからだ。あいまいな設計図で精密機械をうまく組み立てられないのと同じである。
各々の目指す将来像や病状、障害特性は異なるので、作るのは楽ではない。ただ、計画が形になるとだいぶその人のことを概観できるようになってくる。そこに至るまでの関係作りも、なんとなくやっていると時間だけが過ぎていく。関係が停滞しないためにも、意図的に働きかける必要がある。一見楽しくやっているように見えて、内実は相当エネルギーを消費する頭脳労働である。ただ、関係を作り、相手の将来に向けて有効な手法を見出して支援していくというのは、なかなかクリエイティビティに満ちており、わたしがこの仕事に感じている魅力のひとつである。まだまだ未成熟で、なかなか立ち行かないのだが、ゆっくりと自分の技量を育てていきたい。
読んでくださり、ありがとうございます。計画を作っていてふと「自分の人生にも、言語化された何かがあるとやりやすいんじゃあないか」と思いました。下半期の目標設定をした記事や、紙のノートに書き連ねたことがそれにあたりますが、きちんと集約したことはないので、試しにやってみてもおもしろいかもしれません。
コメント
[…] ので、たとえば計画を作っているときなどにさりげなく褒めてもらえるときがでてくる。以前ふれたように、計画作りには苦労するので、評価してもらえるとうれしい。さらに、欠けてい […]
[…] 以前、支援のしごとは型どおりにみえて案外クリエイティブな側面があることを書いた。今、できていないことを見てみると、クリエイティビティに満ちた活動が多い。そういったも […]