【ショートショート】◇魚人の子

魚人の子

「もう、また勝手に陸へ行って。」

 とがめるように母は言う。むすめは口から泡を吐いて、自分の顔を描いてみせた。

「にんげんが、わたしを描いてくれたの」

「あら、人もすてたものじゃないのね。」

 むすめは尾ひれを機嫌よく振った。ごごごっ、と水をひらく音がした。透明な、大きなさかなが母娘のそばを横切ったのだ。

「また遊びにいってもいい?」

「いけないわ。あなたは一族さいごの子なの。何かあったら……。」

「ママのばか、あたしの命はあたしのものなのに。」

 むくれた娘は赤いさんごの間にこもる。気に入らないことがあるとき、いつもそこに行くのだ。さんごたちがくすぐったそうに揺れた。大きなさかなが遠くから見ていた。

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