◆ショートスリーパーの宿命

長く眠ることのできない体は、物心付く前から備わっていたようだ。
「この子は昼寝が必要ない子だね。」
疲弊する母親に医者はこう言った。昼も眠らず、夜も二時間おきに目が覚めて泣く。母親は愕然としたという。思い通りにいかない子育ての厳しさというものを、早くも味わうこととなったのだ。

体質とはいえ、周りが8時間や10時間平気で眠っている姿を見ると羨ましくもあった。修学旅行のしおりはおよそ「22時就寝・6時起床」という幅である。すぐ入眠したとしても8時間あり、2時間余る。家族や友人と旅行に行っても、皆が寝静まる中いちばんに起きてしまう。読み物や書き物をしたくとも、灯りを点けるのは気が引ける。朝の孤独な時間というのは、手持ち無沙汰だと異常に長く感じるものだ。一人旅は誰の邪魔にもならないので、何をしたってよいのだけれど。

もう少し眠りたいと思っても、眠れないのだからしようがない。酒をあおれば長く眠れるがその分睡眠の質が下がってしまうし、薬物療法も効果はいまいちだ。わたしは体質改善を諦め、短眠とじょうずに付き合う方法を考えるようになった。
最近になってようやく、朝の時間を上手に使えるようになってきた。最初はその日の夕飯を洗米したり、だしを取ったり、野菜を切って冷凍していた。よくよく考えると、前日の夕飯作りのあとでやれば洗い物が1回で済むことに気づいた。個人的に洗い物はあまり楽しくないので、朝と夜にそれぞれ発生するのは気持ちが萎む。読書に挑戦したこともあったが、朝は覚醒しきっておらず、文字は入ってきても内容まで浸透しない。読めるとすれば、内容が複雑でないものに限る。
その点そうじは万能であった。体を動かすので目覚めの運動になるし、きれいになるという成果までついてくる。さらに、毎日なんでもいいから書くと決めてからは、より朝の時間が充実してきた。この時間の枠ならば何文字進められるのか、誤字脱字を確認するためにはどれくらい時間があるとよいのか、少しずつ勘が冴えてきたのだ。
いろいろこなすことができるようになった今、ショートスリーパーの宿命とうまく戦えている気がする。まだまだ強くなれるような予感もしている。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。今日はとびきり早く、5時の少し前に起きました。夏とはいえ外は暗く、もの寂しさがつのります。

コメント

  1. […] レム睡眠に必須な遺伝子を発見 -睡眠はどこまで削れるか- レム睡眠をほとんど取らないラットを作ることができた、という。ゆくゆくは睡眠障害の治療や、もっと日中活動をしたい人へのサプリメント開発に役立ちそうだ。 きのう睡眠のことを書いたが、今日は少し続きを書こうと思っていたのでたいへんタイムリーだった。 (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({ google_ad_client: "ca-pub-8654634979251036", enable_page_level_ads: true }); 抑うつ状態が重かったとき、入眠できない・入眠してもすぐ覚醒してしまう(だいたい1,2時間で、ひどいときは20分のときもあった)ということが恒常的に起きた。睡眠薬を入れても効果はいまいちで、起き上がる気力すら沸かないなか、睡眠で時間が潰れないのはたいへん苦痛だった。目を閉じても眠れないのでしかたなく開いてみれば、家の天井の木目がゆらゆらと動き、木目の隙間からおそろしい顔が浮かび上がってくる。自分の方へ迫ってくる心地がして目を閉じれば、目に焼き付きいた木目の波が脳裏で再生されてしまう。 この研究が当時進んでいたならどうなっていたのだろう、と思う。ポイントは「レム睡眠が記憶を定着させる時間である」ということだ。実験によると、レム睡眠がほとんど検出されなかったマウスは「記憶の固定化はされないが、生きるのに支障のない程度であった。」そうだ。ろくでもない眠りと覚醒が反復する日々はそれこそ、睡眠がままならない記憶の蓄積によって起こるものだったかもしれない。レム睡眠をほとんど取らずに済んでいたのなら、入眠の苦しさや中途覚醒のつらさも忘れて朝を(げんみつには、起床時間は日によってばらつきがあったので「朝」ではないのだけれど)迎えていた……かもしれない。 […]

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