◆通勤路における乱数

退勤後自転車を走らせていると、見慣れない光景があった。畑の端に、野菜が無造作に置かれている。引き返してよく見てみると、奥にある畑におばあさんがいる。店頭とおぼしき場所に妙齢の女性が立っており「ほしいものを言ってもいいですか?」と尋ねたところ、客らしい。おばあさんが葉物を収穫するのを待っているそうだ。

見たことのない種類のじゃがいもが売っていたので、買った。100円。ほかの野菜も100円。どうして農家の直売所の価格は、現代の市場に乗らない、おおらかなものが多いのだろう。

これまで幾度も通ってきた道のはずなのに、店の存在に気がついたのはその日がはじめてだった。スーパーマーケットの音や雑然とした雰囲気が苦手なので、個人店や、こういった直売所はうれしい。定休日や営業時間を聞いてみると、おばあさんは少ししわがれた、しかし芯のある高い声で「営業日は決まってないのよ。でも、時間は案外夕方が多いかも。3時とか。」とこたえた。

ポケットモンスター金・銀に、虫取り大会というイベントがある。火曜と木曜の昼に開かれる、曜日限定のイベントである。ここでは比較的捕まりづらい虫ポケモンであるカイロス・ストライク・ヘラクロスなどの、実用に足る虫ポケモンを捕まえることができる(当時、虫ポケモンは弱く設定されがちだった)。この曜日イベントは最新作のウルトラサンムーンまで引き継がれており、曜日ごとにもらえるアイテムが違ったり、その曜日にしか出てこないポケモンがいたりと、だいぶ事細かに設定されるようになった。

古びた小屋の直売所といい、謎のおそうざい屋といい、いつもお世話になっている直売所(そこは一定曜日の早朝しか開いていない)といい、今回の直売所といい、わたしはますますじぶんの通勤路にゲーム性を感じた。

とくに今回わたしの胸をおどらせたのは「決まっていない」というランダム要素である。当然のように毎日開店しているチェーン店たちと一線を画した、乱数がそこにある。乱数があるということは、アタリとハズレがあるということだ。

単なる通勤路にすぎなかったはずなのに、みょうにどきどきしてしまう。通るたびに1回1回、勝負の判定が行われる。複数のルートを持ちながら、またこの畑の横を通ってみようと思わせる魅力がある。わたしは性悪なので、もしかするとこの乱数は、おばあさんによって巧妙に組み込まれたものかもしれないと勘ぐってしまう。しかし、たとえ人為的であろうとなかろうと、わたしの遊び心は止まらない。繰り返すたびになぜか発見があり、日に日に通勤がたのしくなっていく。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。雨の日も電車に乗らないで、歩くようになりました。おそろしく時間はかかりますが……。

コメント

  1. […] ひとつはいろいろな道を探索できるので、時間が経ったころでも発見があること。これは通勤路の話でも似たようなことを書いていて、案外見落としている店や人や変な建物があったりす […]

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