『宇宙の春』(著・ケン・リュウ、翻訳・古沢嘉道)

大学を出てすぐだったか、友人から「きっと好きだと思う」とおすすめされたケン・リュウの短編集。ハヤカワSFのポケットサイズのなんともいえないサイズ感がすきで、文庫版の方が安いのだがあえてそちらを買ってしまった。本棚にしまうときに案の定不便なのだが、なにか黄金比のようなフィット感がある。

まず表題作が目をひく。そこから編纂される短編の流れも、それぞれの話に接点はなくとも、この順番でよかったなという余韻が最後にはある。

どれもよかったのだが、個人的にすきなのが「マクスウェルの悪魔」「ブックセイヴァ」と「メッセージ」「ドキュメンタリー〜歴史を終わらせた男〜」の4本。マクスウェルとドキュメンタリー〜(略)は第二次世界大戦をベースとした作品で、ちょうどそのとき『民族という虚構』()という本を読んでおり、民族間の対立やそれに対する民衆の感情のありかたがシンクロするところもあり、だいぶ堪えた。

「ブックセイヴァ」は著作を読者の読みやすいようにコーディネートしてくれるサービスが一般化した時代の話で、賛否両論、ファスト映画もそれにちょっと似ている構図なんだろうか?と思いながら読んだ。本やことばに関する作品は過去にも縄を結って記録をする一族の話などを書いていて、それも面白く読んだ覚えがある。「メッセージ」は考古学を研究する父と、その娘との会話、生活にあわせて、未開の星の探索をしながら物語がすすんでいく。『紙の動物園』もそうなのだが、親子系の親心の話は20歳を超えてからぐっとくるものがあり、お互いの気遣いの細やかさや運命のものがなしさも含めて、ケン・リュウは描写するのがとても巧い。

ケン・リュウは物語自体のおもしろさもそうなのだが、出てくる人と人との関係性の変容やそのあたたかみを描くのが異様にすぐれた作家だなと感じており、SFのなかでも「やさしさ」のようなものを強く感じる。技術にたいしても人間にたいしても愛がある人なのかなーというのを勝手に思っていたりする。

読んでくださり、ありがとうございます。過去に読んだものももう一度読み直したい気持ちになりました。

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