◆闇金ウシジマくん479(ウシジマくん65)

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滑皮に豹堂の殺害を命じられ、丑嶋が内部抗争に巻き込まれてしまったところまでが前回までの大きな流れでした。謎の東南アジア人暗殺者も登場するし、いろいろと不穏な感じで休載してしまったので、わたし含め読者のみなさまは首を長くして連載再開を待ちわびていたことでしょう。いろいろ書くと「つらい」に終始してしまうので、本題に入ります。

ホテルの自室で、LINEとおぼしきアプリから豹堂のロケーションが送られてくるシーンからスタート。送り主は滑皮だろうか。ただただ「はい」としか返す術のない丑嶋。その前の週がホテルで考え込む丑嶋のシーンで終わっていたので、今週分は、丑嶋に考えるいとまも与えず情報が流れてきてしまった、ということになる。戌亥の情報で新宿に戻ってきたばっかりに、丑嶋の立場はだいぶ危うい。人との信頼を書きつづけたこの漫画で、幼馴染ともいえる人間の裏切り(ともいえる行為)はこたえそうだ。滑皮に渡された拳銃を握り、ポケットに入れる。
言われたとおりの場所へ赴くと、そこは古めの集合住宅である。車の近く、エントランス、部屋の前とそれぞれに子分がいて「突っ込んだ瞬間に蜂の巣だな」と丑嶋は心中で呟く。仮に豹堂を殺せたとしても、生きて帰ることはできなさそうだ。「寒すぎるぜ」ということばからわかるように、そういった死に方を丑嶋は選ばない。そういうわけで、住宅の外階段を登って「俺に関係ねーわ。アホらしい。」と本音を漏らす。やくざの駒として動き、命を落としてしまえばこれまで描かれてきたウシジマ的な生を全否定することになってしまうから、これはもはや当然の帰結である。にしても、このシーンは結構みどころかなと思っていて、丑嶋という男は今まで、こういった感情を声に出すシーンがあまり描かれないキャラクターであった。もともと寡黙なキャラクターとして描かれていることもあるが、今までは、本音を漏らすほど追い詰められてはいなかったのかもしれない、とわたしは感じた。
指示された場所から去ろうとすると、駐車場で後ろから声をかけられる。滑皮の命令を無視するつもりか、とシシックの幹部が凄んでいる。おそらく滑皮に丑嶋の監視でも命じられて、尾行していたのだろう。ここで幹部のひとりが「ビビリのクソ野郎が」と丑嶋に吐き捨てているが、結局は彼らも獅子谷の死後、なすすべなく滑皮に取り込まれてしまった弱者にすぎない。その点においては梶尾を弾いた竹腹の方が、よっぽど獅子谷に忠誠をちかっていたというか、行動に一貫性のあるタマである。
「俺らは滑皮組長に盃もらったんだ。」と述べてから、彼はスタンガンを丑嶋にあてる。やくざから盃をもらったことを盾に人を脅す輩というと、ギャル汚くんで登場した石塚ミノルが思い起こされる。盃をもらうということは人間のレイヤーが一般人からやくざに変わるということを意味する。丑嶋は幹部が滑皮に取り込まれたことを知らなかったので、対面してすぐは幹部を睨みつけ「あ?誰だテメェ。」と常体で答えるが、盃の事実を聞き、獅子谷や潜舵を殺したのはお前だろうと詰められたときは「知らねェよ。」ではなく「知らないっすよ。」と答えている。ここは結構大事なところで、丑嶋はやくざだとわかったとたんに敬語を使っている。彼は相手の立場によって自分の立ち位置を固定している。それだけ盃をもらうということが力の誇示になる、ということだ。
ふつうに考えて、獅子谷と潜舵らと強盗に行って丑嶋だけが戻ってくれば、丑嶋が彼らを一掃したと考えても不自然ではない。それだから幹部は「とぼけんな人殺し!」と丑嶋をののしり、丑嶋がどれだけの人間を不幸にしているのかということ、いつでもさらって山に埋められるのだということ、丑嶋が死ねば悲しむ人間より喜ぶ人間のほうが多いだろうということを一気にぶつける。その合間に丑嶋の横顔が描かれるが、今までに見たことのない表情である。罪を懺悔するようにも、真を突かれて良心の呵責を感じているようにも、どこか疲弊しているようにもみえる。幹部とはじめに対峙するときの顔とはだいぶ対照的だ。思えば、丑嶋はここまでで数々の殺しを経ているが、その殺しの種類というか、動機はよく見るとちがっている。今回の話から逸れるトピックなので、そのうち別で書きたい。
幹部から解放され、後半は丑嶋の心中が次々に吐露される。こういった描写は今までの闇金ウシジマくんにはなかったものなので、相当重要なシーンとして今回の後半があるのがわかる。それだけ今回のできごとが丑嶋の、金と信頼を肝にやってきたウシジマ的生き方を揺らがせるものだったということがうかがえる。
歩きながら丑嶋の思いは交錯する。豹堂は自分に関係ない。たしかにそうである。ならば、いっそ今回の元凶ともいえる、滑皮を殺してしまえばいいのではないか。しかし、そうしたところで報復はやってくるだろう。誰を殺しても連鎖はとまらない。とくにやくざというものは肉蝮のような個の脅威とちがって、大きな意識の集合体である。それだから一度やくざに手をかけてしまった以上、丑嶋はこのサイクルから逃れることはできない。
逃れられない連鎖ならば自首しまおうか。確実に死刑である。そういった死に方を丑嶋は望まない。そもそも法によって裁かれようとするなら、彼ははじめから闇金などはじめはしないだろう。それだけ丑嶋の胸中がざわついている、追い込まれている、ということがうかがえる。
現実的に選択しうる考えがひとめぐりしたところで、丑嶋の前に竹本が現れる。竹本は「ヤミ金くん」編で地獄に送られているから、ここで出てくる彼は丑嶋のつくりだすまぼろしである。周りに敵ばかりをつくり、丑嶋はなんのために生きるのかと竹本は問う。丑嶋は、少年院で読んだ本のことを話す。進化できた生き物がしたことは敵を倒すことだけだった。有利な立場に立たなければ生きるのに不利である。だからこそ、丑嶋は邪魔なやつは潰していくという。自分の意志で戦えない者は生き方を選べない。それどころか、死の決断すらできやしないと丑嶋は言う。
竹本のまぼろしは、そういう生き方は拠り所をなくし、何処にもいられなくなると宙を見て返す。じっさい丑嶋は今、そういう状況に陥りつつあるが、それに対し「だから?」と一蹴する。最初から独り、死ぬときも独りでいいと、丑嶋は思う。そして滑皮の銃を口に突っ込み、引き金を引くのだった。
最後のまぼろしとの対話のシーンは完全に丑嶋と竹本の1:1関係になっており、「拠り所」のシーンでうさぎやカウカウメンバーなどはまったく描写されない。仮にこのまま自害してしまえば、トラックに突っ込もうとした丑嶋に対して滑皮が言ったように「自分のことしか考えてねェ」奴である。そうであるとしたら加納の報復や、人質となった柄崎を助けに行ったときの「カウカウファイナンス社長」としての顔は捨て去ることになる。しかしそれはどうもこれまでの丑嶋の生き方・考え方を一貫して書いてきた本作の流れからして、あまりにも唐突すぎる展開のように思える。
個人的には、おそらくこのあたりを顧みずに命を捨てるということはないように思うので、もう少し話自体は続くような気がしている。時系列は謎だが洗脳くん編の後日談もあるし、あっさりここで死んでしまっては時間軸があわないような気もする。
読んでくださり、ありがとうございます。文字数も文字数ですし、あとはこまごまとした考察になるので、記事を分けます。なぜ急に竹本のまぼろしなのか?とか、そんな描写はこれまでずっとなかったわけですから、気になるじゃあありませんか。

コメント

  1. […] も佳境にさしかかり、主人公である丑嶋の胸中が語られる貴重な一回だった。くわしくは感想記事に書くが、その語り口も心情の吐露も今までのウシジマワールドの集大成をなしていて […]

  2. […] 前回分はこちら。先週のぶんの考察が深められていないので、今回はさっと茹でた枝豆のような感想になります。まぁ話としても進んでいないというか、今回は猪背の構造的な部分がわ […]

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