今回のお話
銀座の歓楽街?だろうか、を歩く京極と壬生。どこの店の者も、京極に挨拶をしている。「人気者ですね。」と言う壬生に、お金を使っているからなと京極は返す。彼はそのことより、九条をどうしてすぐに紹介しなかったのかを尋ねる。壬生は、伏見組と付き合いのある弁護士がいるため、自分から言うのも気が引けたと話す。訝しむ京極だが、ひとまず流すことにしたようだ。
懲戒になった伏見組の顧問弁護士は接見室で携帯電話を貸してくれたが、九条はむしろ、ここで電話を貸すことが不利であると解き、今回のケースは正当防衛が成立するため、黙秘しておくよう促す。そして相手が示談に応じてきたことから、勾留を解かれたという。壬生は「おめでとうございます」と言うが、京極はどこか疑っている様子をみせ、何かが引っかかるという。銀座でひったくりにあうのは初めてで、誰かが自分を嵌めようとしているのではないか、そして、その首謀者が壬生ではないかと言うのだ。壬生はこたえずにいる。京極は「あの日のこと」と過去のできごとを持ち出す。
場所はどこかの工場のようだ。不釣り合いな高級車が入口を塞ぐように停まっている。何かの機械が動く中、京極が壬生に忠告しているようだ。どうやら、壬生たちは伏見組が面倒をみている賭場を荒らし、売上金を盗もうとしたらしい。店で暴れていた輩を暴力を介して問いただすと、すぐに壬生が黒幕と吐く。半グレは上に対する忠誠心がない一方で、ヤクザは上をうたわないと京極は言う。
そして、車の塗装を速乾させるヒーターを近づけながら、手足を側溝に繋がれ、動けない壬生を試す。壬生は今死ぬのには惜しい人材なので、忠誠心を見せたら今回は許すと。近づくヒーターを前に、壬生は許しを乞う。それを聞いた京極は、子供の頃からの心の支えである愛犬のおもちを殺せと命じる。何も知らずに繋がれたおもちがそこにいる。壬生は耳を疑うような表情をみせるが、京極は「無理なら死ね」と選択を迫る。そして壬生は金属バットを持ち、涙ながらに、何も知らずにいる愛犬おもちを殺すのであった。
おもちを殺した壬生に対して京極は「俺の命令で殺したら俺を恨むことで解消しちまうからな。生きる罪を一生背負え。」と言う。
そして壬生は、全身におもちのことを忘れない刺青を全身に入れるのであった…。
感想
第1審から登場し、九条にきわめて近い人物である、壬生の過去が描かれる。どんどん身近な人物の描写がすすむ本作だが、もう壬生を掘り下げるとは思わなかった。まぁ、なんにしても、京極は壬生の動きをあやしんでいる。自身に一度牙を剥いた相手であり、完全なる信頼を置ける存在ではないようである。いっぽう、警察陣営は壬生を、伏見組と裏で繋がって荒稼ぎをして勢力を伸ばしていながら、京極の小間使いに過ぎない、と話している。警察にとっての壬生は検挙したい悪の本丸への入り口であり、九条にとっての壬生はアンダーグラウンドな顧客の紹介元、この作品の場合、その多くは物語の発端である。この他者・他陣営を媒介する様相が壬生の特徴であるがゆえに、早くもエピソード掘り下げ、決着した(とくに、壬生が殺されるような)場合に、今後がどうなっていくのかが非常に気になった、というのが今回の感想の大きなところである。
壬生の刺青は「弱者の一分」編で金本を殺害する際に大きく出てくる。そのときは何が”everlasting rice cake”なのかさっぱりと言う感じだが、このエピソードを見るとよくわかる。「家族の距離」編の序盤で、金本の飼っていた犬を烏丸が連れてくるシーンで九条は、「(ブラックサンダーを)壬生くんが飼えばいいのに、死んだ愛犬のおもちが忘れられなくて無理って言うんだ。案外繊細だよね。」と話していることから、九条は壬生とおもちの一件について知らない可能性が高い。
それにしても、キリスト教の神の全能を意味するプロビデンスの目や、天秤を彫ることにも意味があるのだろうか。天秤もキリスト教的なものと考えれば最後の審判が思い浮かぶが、壬生がそこまで考えているかどうかは疑問である。
それより気になるのは、金本を殺害したあと、薬物の元締めである伏見組の幹部が逮捕されていることである。今になって振り返ると、この件も壬生が裏で糸を引いているのだったら見事である。しかし「家族の距離」編で、久我を使って菅原を嵌め、法人を追い込んだことを考えれば、できなくもないかもしれない。このあたりのことも踏まえて、京極は壬生を疑っている線があるのではないか。
九条は金本の一件のあとで「壬生くんは合理的に動く。無駄なことはしない。」と言っている。前回のエピソードを読み返してみると、食事に誘った京極の電話のあと、壬生は何かを考えているような様子である。しかし、佐久間による引ったくり→被害届の取り下げ+京極への九条の紹介→勾留解除という流れをみるに、勝算は見出しがたい。今回の話の流れまで読んでいるのか、はたまた想定外なのかはよくわからないが、ひとまず京極に対して良からぬ感情を抱いているであろうことはわかった。このあとがどういった話の運びとなるのかが皆目みえてこないが、「強者の道理」というサブタイトルから、壬生が敗けてしまう線は濃厚なのかもしれない、と思っている。
京極だが、どのように成り上がったのかは不明である。しかしながら、この時代に自ら選んでヤクザをやっているわけなので、いくぶんか考えがあって今の立場にあるのだろう。そして半グレの組織性の弱さについては、嵐山と同様のことを述べている。また、誰しも自分かわいさに保身をえらぶことについて、「エゴサーチは愛の探求だ」という名言らしきものまでのこしている。そして実際、壬生は自身の生命とおもちを天秤にかけた際、自身の命を選びとるわけである。これは壬生が相対的弱者であることによって掴まされた道であり、「強者の道理」というサブタイトルはここで一旦回収できている、との読み方もできる。年月が経過してふたたび疑いの目が向きつつある今、この関係性に変化が生じるのかどうかが気になる。
また翌週を楽しみに待とう。
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