◆望郷

 職場の近くに越して5ヶ月。23区に、外の音がまったく聞こえない閑静な住宅街があるとは夢にも思わなかった。カレーのおいしいお店が多く、いくつかお気に入りができた。凝ったセレクションの古書店も、こだわりのある中国茶葉のお店もある。治安もよい。どこからどうみたっていい町だ。思っていたより、この町をすきになった。

 ただ、いつもどこかでさびしい。居心地がよい。職場が近い。すきなものもたくさんある。それでも心には穴があいている感じがする。原因はわかっている。

「ここは立川ではない。」
 たったそれだけだ。1時間かからない距離に住んでいても、ひどくさびしい気持ちになる。昔と比べて音楽ゲームはしなくなったし、コロナ禍で友人の集まる頻度も減った。それでもこの町には、わたしを引き寄せるなにかがある。最近はもうれつに帰りたい気持ちでいっぱいになる。駅で降りた安堵感につつまれたい。だいすきなお店にお金を落としたい。

 高い家賃を払ってまで、わたしが得たかったものとは一体なんだったのか……。

 とはいえ、戻れば通勤がたいへんになる。転居した理由は通勤の利便性、ただ一点のみである。時間は貴重な財産であり、通勤に費やすのは惜しい。通勤電車は心身の消耗もはげしい。それに耐えうる体力と気概があるだろうか?そこまでしてわたしは戻りたいのだろうか?戻った先に何があるのか?逆に戻ったことで失うものは、わたしにとって大きいのか?答えの出ないまま逡巡している。

 いつまでも決めきれないのは精神衛生上よくないので、引っ越し資金が貯まるまでには、具体的なコストを算出して現実検討しておきたいところだ。

 読んでくださり、ありがとうございます。こうなることはまあ予測していたので、前の家にひとりで住み続けることも選択肢にあったのですが……果たしてどちらがよかったのか、確認する術がもうありません。それにしても23区、家賃が高い。仮に、立川とおんなじくらいなら喜んで住むのか?それもちょっとわからない。うーむ。

コメント

  1. […]  立川に戻りたくてしかたない気持ちでいっぱいになっている、という記事を書いた。その気持ちは今もふつふつと湧き上がるときがあって、今いる場所への不満がなくともかなしみが […]

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