『ルポ・超高級老人ホーム』(著・甚野博則)

いわゆるサ高住の入居者、スタッフ、業務の様子にきりこんだ本。高くてもこうなので、安いところになるともっと混沌としているのだろうなと思わされる。

どこにでも社会はあるけれども、夫婦で入居するとパワーバランスが妻によりやすい傾向や、後半に出てくる、弁理士として働いていてセカンドハウス的にホームを使っている利用者のかたが、内部の人間関係を極力さけているというのが印象に残った。前者については、うつ病の本だったか、男性は仕事の立場がアイデンティティになりやすく、退職したあとに役割やコミュニティを失い罹患しやすいという話があったのを思い出す。それと近い感じなのかなと思う。弁理士の方については、そう振る舞うことについて、「まだ俺は働いてるしな」と一言。あくまで働く中での人間関係が主で、ホームでは決してないのである。セカンドハウスとして使っている理由も、主たる持ち家にいる妻との距離をとるためという、たいそう贅沢な選択肢であった。

いずれにしても、どこでどのように生きていくか、自己決定できる状態を備えておけることが人生の締めくくりを迎えるにあたっての、幸福や納得につながるのかなというのがひとつ、もうひとつは、われわれのこの先を考えたとき、軸となる生き方(それは働くことでも、そうじゃなくてもいいとわたしは思っている)を見出し、年齢や地位などの条件に縛られることなく、つきつめていけるといいのかなと感じた。

ここに出てくる入居者たちはわたしの生き方では到底届かない収入や選択をしているので、真似していくことは難しいが、いろいろなケースを俯瞰してみることで、結果として生き方を考えるヒントが見つかったのは意外な成果であった。そういう出会いや発見があることも読書のたのしさのひとつといえよう。

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