◆『九条の大罪』第29審「消費の産物❷」

今回のおはなし

しずくは、歌舞伎町でマッチングアプリのイケメン・修斗と出会い、他愛もない雑談を過ごしながら歩く。お腹は空いていないというしずくに、修斗はバーを提案する。バーに入った途端、修斗は店内のひとびとから歓迎され、人気者なのだとしずくは考える。
バーが初めてだというしずくに、修斗は年齢を尋ねる。20歳というしずくに「幼く見えるね」と言うと、「本当は18歳」と話す。修斗はしずくを見定めるような目をみせ、お酒をやめておくかと尋ねるも、しずくは乗ってくる。修斗はしずくを褒め、会計も済ませておいてくれた。終わり際、しずくは楽しかったと嬉しそうな様子をみせる。くだらない自分のくだらない話も聞いてくれるからまた会いたいという修斗に、「しずくちゃんはくだらなくないよ。一緒にいて楽しい。LINE交換しよう。」と連絡先を交換する。しずくはすっかり修斗に惚れてしまったようで、駅の地下通路と思しき場所でムーちゃんを待っている。

その頃ムーちゃんは、道端で暇そうにしている小太りの男に声をかけ、終電を逃してお金がないので知り合いの安い店で飲まないかと誘う。ムーちゃんもしずくと同じく、ややロリータ寄りのいでたちであるが、顔を見るにメイクも薄く、ほうれい線もくっきりと出ている。そしてリストカットの跡も多く、並々ならぬ雰囲気が漂っている。男はまんざらでもない様子で同行するが、飲んだ合計額は40万。高くないかと異議を申し立てる男だが、刺青の入った恰幅の男にあしらわれてしまう。どうやらこのぼったくりバーがムーちゃんの「仕事」のようだ。

しずくにとって、ムーちゃんの家は居心地がいいらしく、ムーちゃんとしても「いつでも泊まりに来て」と好意的だ。額に入った可愛らしい少女の写真をしずくは「大好き!すごく可愛い。」と褒める。どうやら昔のムーちゃんらしい。ムーちゃんは今39歳だが、しずくと姉妹のようだと言う。自分はまだ見た目が若く、可愛いのでぼったくりバーの客引きができ、50までは現役の女の子だ、と。しかし、しずくはそこには乗らず、無言だ。
ムーちゃんは、しずくがイケメンに会えたかどうかを尋ねる。しずくは嬉しい報告を笑顔で行うが、ムーちゃんはなんともいえない表情をしている。

場面は修斗に戻り、雑居ビルの外階段だろうか。スマホで連絡をし、しずくが「かなりいい」ということで、どこかに紹介するようである。

感想

修斗のやりとりは手慣れており、しずくもカモられるのだろうということが予想できる(し、今週号でそれが明らかになった)が、しずくにはそれがわからない。今回もっとも気になるのは、しずくと自身を「姉妹みたい」というムーちゃんの表現だ。客観的にみると自己像と現実の乖離が著しいムーちゃんだが、どういった意図なのだろうか。服装の好みや、リストカットなどをみるに、見かけのぶぶんでは似ているところは多い。ただ、しずくはそれを肯定しておらず、どこか考え込んでいるようにもみえる。しずくにとってムーちゃんがある程度頼りになる存在であることはうかがえるが、どこか、委ねきっていないというか、同じ顛末になる(要は現在のムーちゃんのようになる)ことは望ましくない様子なのかもしれない。

副題「消費の産物」の意味というのが、消費されつくしたしずくの末路であり、消費財としての価値を見出し、貶めた修司の末路ともとれる。
ムーちゃんも自室を見る限りべらぼうな浪費家のようであるし、ここでの消費は物的な意味合いと、その人自身がもつ存在そのものや命の尊厳といった、目に見えないぶぶんにもふれたテーマであることが予測できる。

最新号が発売されたあとの感想なので、あれこれと書くのはよそう。

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