◆感想『九条の大罪』第58審「愚者の偶像」⑨

今週のお話

今週は巻頭カラー。裁判所の廊下で腰掛けている九条に、烏丸がイソベンにしてくれないかと頼む、過去のシーンから始まる。烏丸はもちろんノーネクタイ、なぜならむすぶことができないからだ。そして、用件を言ってから身の上を明かすなど、一般的なマナーからするとちょっとクセのある感じだ。目つきはりりしく目の光も多めで、なんとなく、九条のところにきてからのほうがきつく見える(真鍋作品はやや絵柄のブレがあるので、単にブレである可能性もあるが)。

烏丸はイソベンをして、九条の事務所で学びたいという。九条からみれば、四大名門事務所の「上澄み層」弁護士が自分のような「底辺」になんの冗談かと、取り合おうとしない。烏丸はすかさず、今つとめている東村ゆうひ法律事務所は辞めるといい、九条に水を差し出す。九条は受け取って一緒に飲む。ここのシーンは以前烏丸と訣別(仮)した、コンビニコーヒーのとの対比だろう。烏丸は、大手事務所の仕事は資料集めや雑務ばかりでつまらないのだという。そして、修習生のときに九条の裁判を傍聴したことを持ち出す。世間の風潮は被疑者に死刑を望む案件であり、世間の風当たりを恐る弁護士がまず引き受けないものだ。しかし、九条は引き受けていて、その理由を問う。九条は「世間を敵に回しても最善の弁護を尽くす義務があるからです。」とシンプルにこたえる。烏丸は金にもならず世間からも疎まれるのにか?と更に問う。それに対して九条は、使命感は自分のものであり、外的要素(ようするに金や世間だろう)とは別だとはっきり分けている。それを聞いて烏丸は「面白いですね、いいなぁ。」と笑うのであった。

現在にもどり、事務所でブラックサンダーと床にへたりこむ九条。服装も普段より乱れていて、表情もすぐれない。それにしてもブラックサンダー、本当におとなしくなったなぁ。すぐに場面は壬生の自動車工場へ。そう、犬飼がきているのだった。何しにきたと淡白な壬生にたいし、犬飼は10年前の事件のことを持ち出す。面会に来なかったことや、(犬飼が)拒否したからだと言われ、何度も足を運ぶのが筋だろうと自分なりの意見を言うものの、ようするに当時うけとった300万では足りず、3億払えとむちゃをいう。犬飼の3億は本気のようで、小山や京極のほうまで情報を得ているようだ。知らぬふりをして、過去の話と流そうとする壬生だが、工場の外には菅原や、その手下とおぼしき男らがうろうろと囲っている。気づいた壬生は、何やら金属製のチェーン?武器?をおとす(調べ方がわるく、何かはよくわからなかった)。それから犬飼は、壬生の右腕である久我を人質にとったことを伝える。久我の店が風俗で摘発された際、壬生とのつながりに気付いたという。菅原との関係を考えれば、スパイとして介護施設に潜伏させ、潰された恨みもあるだろう。それらも含めて3億なのだと、改めてつきつける。期日は、今月末だ。

感想

九条と烏丸の出会いがここで描かれる。九条には、世間の声にかかわらず、「弁護士は最善の弁護を尽くす義務がある」というポリシーがある。このポリシーは前にも書いたかもしれないが、あらゆる職業において必要な感覚かなぁと思っていて、とくに医者や弁護士のような、人の生命や人生を握ってしまえるような職種についてはとくにそれがいえる。九条はシンプルにとうぜんのことを話しているにすぎない。ただ、それが労働の対価である「金銭」や「名声」を上回ってもやるべきことなのか、となると、意見が分かれるところだろう。九条はそこに迷わず「使命感は自分のもの」とわりきっている。だからこそ誰の依頼でも受けるし、そこに貴賤を見出さず、一律の値段で案件を受けている。それを聞いた烏丸は「面白い」と、このままイソベンになったのだろう。この、第1審からくりかえし語られている「依頼人を貴賤で判断しない」「着手金一律33万」「法律の面倒は見られるが人生の面倒はみられない」等々は、わたしたち読者もみてきたもので、今も同じく、みている。しかし、烏丸は九条の事務所で過ごす間に、そのポリシーやスタンスに疑問をもっていく。その要因が、裏家業の人間たちだ。烏丸は彼らを「自己保身のためなら簡単に証言をひっくり返す人間」と評す。それは裁判において、九条の臨む「最善を尽くす」こととトレードオフにならない、ということでもあるし、裁判の外において立場を変えてくるということでもある。そういった人々の弁護をうければうけるほど、世間から疎まれ、さらに裏社会からの以来が増え、何か「まちがい」があったときには身の危険が迫るといった、九条の立場どころか、さいあく生命の脅威につながってしまうことに、烏丸は気づいたのだ(し、おそらく九条もどこかでわかってはいるだろう)。しかし、そうまでしてそのポリシーを崩さず、九条をそうさせる原動力は何なのか。娘の件だけが、九条を突き動かしているのか、どうもそのあたりは、クリアーにならない。兄に放った「あなたには見えないもの」というのも、そういった外的要因を捨象した先にあるもののように思われる。このあたりは、もう少し物語を追いたい。にしても、烏丸が去って、なんだか九条は最愛の恋人にフラれたあとのような様相をだしつつあるので、なんだかんだ烏丸の存在は大きかったのだなあ〜という、人間味のある一面がみられた。

さて、壬生の方は、犬飼が語る通りなので、あまり書かないが、犬飼の3億は収監されていた頃から語っていた部分になるので、明確な根拠があるのかはよくわからない。ただ、今回の3億はバックに菅原がいることや久我の身代金的なものも鑑みて、まぁ、ちょっと多すぎるにしても根拠が増えたなあ、という感じはする。ただ、犬飼も上下関係に忠実なぶぶんは今のところ、あまり見られないというか、やりたいようにやりますよという感じだ。『闇金ウシジマくん』の話で恐縮だが、滑皮たちのようなヤクザになると、上に忠義を誓う、といったところがキャラクター性として押し出されるが、壬生や菅原、犬飼は半グレである。京極がおもちを殺したときのように、半グレは組織性がうすく、自己の保身が第一といったセリフもみられ、ちょっと、行動の原理ややり方というのが、まだ見えづらいところがある。ただ犬飼は即興で強盗をしてうまくやっているといった瞬発力はあり、急に突飛な行動に出ると言った危険性はみられる。

さて、壬生がこの案件を九条に持ち込んで、ややこしくなるような感じなのだろうか。ただ、数馬や千歌といった若いキャラクターの進退も気になり、今回における物語がどう集約していくのか、みものだ。これまでは10回程度の連載で1シリーズだったが、今回はここから犬飼が動くし、数馬も成り上がりきっていないし、壬生の「前科がない人間に頼みたい仕事」も謎のままだしと、少し長めのシリーズになるのかな。

コメント

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