◆感想『九条の大罪』第57審「愚者の偶像」⑧

今週のお話

犬飼陣営から話はスタート。菅原から頼まれたのは、運転するだけで3万もらえるという仕事だ。明らかに怪しむ犬飼に対し、仕事を案内する男が説明してやる。車泥棒が、盗みたい車のスマートキーのデータをコピーできる「コードグラバー」というロシア製の機器を使って盗んだ車だと。車は東京から栃木まで運ぶといい、Nシステム(機器を通過した車両のナンバーを控え、手配車両を探すシステム)を避けるせいで遠回りになるので余計遠いのだと。車屋に着き、キーを渡す犬飼だが、その目線は事務所の金庫だ。帰り道は、徒歩39分かけて最寄駅に向かい、新幹線で戻るという。聞いて納得のいかない犬飼は、盗難車のいく末を尋ねる。工場で解体して海外に送るのだという。解体するのは、検閲で盗難車とバレづらくするのと、車よりも部品の方が税金が安いのだという。リスクの高いバイトで3万というのに納得がいかない犬飼だが、「下っ端だからしょうがねーよ。」と男は言う。それを聞いた犬飼は菅原に悪態を吐き、さきほどの車屋を強盗することを提案する。金庫はともかく、防犯カメラの位置も押さえたという。男は制止し、どんな連中と繋がっているのかわからないとリスクを挙げる。「バレなきゃいいんだよ」と犬飼。

早速、実行したようである。血痕がところどころに飛び散っているので、穏やかではなさそうだ。犬飼と、制止した男、もう一人の男が事務所で座っている。犬飼が凶器の処理を指示する一方で、男はキャバクラ豪遊を提案する。そこに、犬飼が「信頼ゲーム」を提案する。相手の手のひらを開き、指の間にナイフを刺していく物騒なものだ。「信頼がないと出来ないだろ?」、犬飼は言い、男にナイフを渡そうとする。うろたえて男が断ると、犬飼のターンに回り、手の甲、指にめいっぱいナイフを刺し込む。指がちぎれる。小松と呼ばれた男は痛みで呻いているが、犬飼は「ここからが信頼ゲームだ。」と言い放つ。実は、嵐山の娘が殺された事件のことを密告したのは、小松だったのだ。今の怪我について、病院でどう説明するのか問うと、「自分で指詰めごっこしたって言うよ。」と痛む手をおさえながら答える。「いいね。」と。

その後、菅原に呼び出され、車屋が強盗にあい、世話をしている組の人間が犯人探しをしているという。何か知っているかと尋ねられるも、犬飼は「いえ、まったく。」と。後ろにいた小松にも尋ねるが、少し焦った様子はみられるものの、知らないと。菅原はすぐに引き下がり、夜飲みに誘う。女も集めるという。ここで場面が変わって。数馬と千歌だ。数馬は今、ホテル暮らしをしているようだが、近々レジデンス(マンションよりワンランク上の邸宅)に引っ越すというので、千歌に同棲を持ちかける。千歌は「東京カレンダー」の人生をなぞる女なので、レジデンスにはしっかり食いつく。やりとりの最中目線はすっかり合っていないが、数馬は意に介さないようだ。今夜の食事についてやりとりをしていると、菅原から連絡が入る。女を数人集めるように、千歌も来るように、だ。冷ややかな目線をスマホに向けつつ、「用事ができちゃった。」と数馬の予定を断る。せつなく目を伏せる数馬だが、追うような真似はしない。理解を示す数馬に笑顔を向ける千歌であった。

そして、場面はさらに変わり、壬生の自動車工場に。ウシジマくん読者はおなじみの、ペン型の凶器を隠し持った犬飼が訪問するのであった……。

感想

今回も盛りだくさんだった。犬飼は懲役の間にうばわれた時間の重みを味わっているはずだが、今回の強盗のところをみるに、長期的な観点から物事を為す、ということはあまり上手ではないのかもしれない。小松が一応止めているものの、そこも取り込んでいることから、脅威で人を支配するタイプなのかなーというところもうかがえる。また、凶器の捨て方についても、証拠隠滅できているかどうかというとちょっと弱い感じがする。小松が引き受けようとそうでなかろうと、凄惨きわまりない「信頼ゲーム」は、そもそも嵐山の娘の件をゲロっているので刺すつもりだったのだろう。それは以前の、出所時の菅原とのやりとりにあった「俺が地獄にする側になりましたがね。」からも読み取れる。その助走としての小松だ。壬生からは3億である。どういった計算で3億になるのかはよくわからないが、とにかく3億だ。それに対して菅原は「いいね。」という。この「いいね。」は今回、犬飼が小松に対して放った「いいね。」とおそらく対応しているんじゃないかと思っていて、というのも、菅原は、壬生への恨みをつのらせる犬飼に利用価値を見出しての「いいね」、犬飼は、小松が10年前のように裏切らない(意のままに動かせる)ことを確認しても「いいね」だ。もう少し考えてみると、「いいね」という言葉はSNSの登場によって身近になったと共に、その気軽さのぶんだけ重みがなくなってきているのかなーと、そんなことも思う。そうなってくると、彼らの間にある「信頼ゲーム」はしょせん「ゲーム」であり、プレイヤーが「降りる」ことや、ゲームマスターによる「ルールの変更」が起こってしまえば、より弱いもの、たとえば小松のような……は憂き目にあうことになるんじゃあないだろうか。

そして数馬であるが、会社を売るというやりかたのは順調なようだ。千歌との関係も、以前ほど上下のギャップはなくなってきている。ただ、やはり千歌は女性を斡旋することや、ときどき自身がそのフィールドに立つことによって身銭を得ているし、そのことは数馬よりも優先度が高い。ただ、数馬も以前ほど必死に縋り付くという態度は見せず、どこか余裕のある返しができるようになってきているし、深追いしない。ただ、金銭を得ること=幸福や崇高さと直結しないことが、裸の運動会を見た数馬には身に染みている。それをもってして、それに極めて近いフィールドにいる千歌について、ほんとうの姿を見出したとき、どうなってしまうのだろうといったことが気になる。

今のところ九条の出る幕はなさそうだが、犬飼が出てきているのもあり、あきらかに加害の意志がみてとれるので、仮に壬生に何かがあって、そこに伏見組がでてきて、というところになるのだろうか。そして数馬を見定める壬生の、頼みたい仕事というのも気になるところだ。今回犬飼に損なわれてしまうと、それも後ろ倒しになってしまうわけだが……。

来週の予告にはタイトルが載っていなかったので、休載なのかな。つぎがお盆を挟んでお休みなので再来週が出た後はまた2週あきそうだ。それくらいの方がきもちの余裕をもって感想を書けるのでよいが、毎週お話を読めるよろこびもすてがたい。

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