『老神介護』(著・劉慈欣、訳・古市雅子、大森望)

『三体』で大きなインパクトを起こした劉慈欣の短編集。実は短編もやっている。面白かった。5作おさめられていたが、どれもよかった。それぞれあらすじが簡単に書かれているのだが、読むと「どういうこと!?」と引き込まれ、ついつい読んでしまった。

テクノロジー的な難しさも短編ゆえか、『三体』よりシンプルで、混乱をきたすことは少なかった。前半にあるお話のほうがそういう意味では読みやすく、後半になるにつれてちょっと難しくなってくる感覚はあった。とはいえ、短編どうしで時系列や人物が重なっているふうな描写も手伝って、気になって読んでしまった。

中国SFの短編といえば間違いなくケン・リュウが挙がると思われるが、前者が人と人(もしくは機械やテクノロジー)との「個」の物語にフォーカスしている作品が多いのに対し、劉慈欣は一定の技術をもった「世界」にフォーカスしているような感じがあった。表題作の『老神介護』も、個々の人間と神の話を中心に進んでいくものの、最終的には人間と神そのものの関係性やその後の時代に向けた視点で締めくくられる。ケン・リュウの描く人間のあたたかみや可能性もすきなのだが、劉慈欣の物語の壮大さも心惹かれる。しかも決して多くないページ数でわくわくさせてくれて、いいんですかという気持ちになった。あとはテッド・チャンだが、寡作なことや、これ以上さいていくと話がそれてしまいそうなのでまた別の機会にと思う。

読んでくださり、ありがとうございます。こんなおもしろいものを書ける人間がいること、すごい!という気持ちと、本は文章として残るので、過去になったとしても共有できるのが倍すごい……と、改めて思わされました。偉大な発明。

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