◆感想『九条の大罪』第60審「愚者の偶像」11

今週のお話

菅原・犬飼と鉢あった数馬は、千歌のマンションに連行されたようだ。「あぁ、最悪だ」と独白し、体育座りの先には犬飼が千歌に覆いかぶさっている。千歌は眠いというが、犬飼は意に介さず千歌の下着に手をかける。千歌は菅原を「スガちゃん」と呼び、犬飼を止めるよう叫んでいる。菅原はスマホを2人のほうへ向けているが、撮影しているのではなく、数馬のスマホのチェックをしているようだ。呑気に構えており、数馬は大好きな千歌が手篭めにされてしまう……と、見ていられないのか俯いてしまった。千歌は女の子を呼んでいるので落ち着いてというが、犬飼は刑務所にいた10年間の性欲が爆破寸前だといい、呼んだ女でも千歌でもかわらないという。一方、千歌は肉体労働はしない、安い女ではないと、以前も言っていたようなことを口にするが、月40万でキモいおっさんとパパ活している売春婦となじる。それに対して付き合うレベルを引き合いにだし、イッヌは対象外と不貞腐れながら言い放つと、犬飼は千歌の髪をつかんでベッドに押し付け、25を超えた女は港区ババァだと罵る。千歌は怖気付くことなく、そういった失礼な態度が女の子を帰らせたのだと、以前の飲み会のことを挙げる。犬飼を動物以下と言い放つ千歌だが、それに対し犬飼はナイフを取り出し、自分と同じような傷をつけてもパパ活ができるか試してやる、と脅す。そこ躊躇なくナイフを振り下ろそうとする犬飼だったが、チェックの終わった菅原が犬飼の手首を掴んで静止する。しかし犬飼、全身刺青だらけですごいな。菅原は千歌のスマホを投げつけ、呼んだ女を迎えに行くよう指示する。ベッドから降りた犬飼はキッチンのシンクで放尿する。怒鳴る千歌だが、やはり犬飼は意に介さない。「動物以下だわ!」とうんざりする千歌だが、うなだれる数馬のことも一瞥して「どいつもこいつもクソっ!」と悪態をついて部屋から出ていく。

それに対し、コーラと唐揚げを注文する犬飼だが、千歌が出て行った途端、引き出しをひらいて中をあらためる。扇状的な下着や電マなど、千歌が複数の男との関係をもっているであろう証拠がでてくる。顔を上げた数馬だが、犬飼に自身が何もできなかったことを突かれ、いざというときに本性が試されるのだという。そこから、少年刑務所にいた頃の話をはじめる。4人部屋の中には必ず上下関係があり、絶対的だったと。その理由を問うが数馬は答えないまま俯いている。気にせず犬飼は話を続け、上の人間は革命で立場がひっくり返ることを恐れているからだという。看守も、管理にあたっては人を分断させておいた方が都合がいいので、黙認していたという。そこから、無抵抗の弱い奴がムカつくと犬飼は言い、数馬を弱者とよび、女も金も全部もらうと宣言する。そこに菅原が金を渡し、犬飼を退室させる。どうやら、呼んだ女の子はモモヨ、つまり数馬を推しているももよだろう。「推しの生誕祭近いから助かる!」というももよと、容姿にそこそこ満足している犬飼はホテルに向かう。

菅原が犬飼の非礼を詫びると、数馬は寂しそうに顔を上げる。千歌にも全盛期があり、芸能人やグラドル等を集めて富裕層のおっさんにアテンドする立場にあったというが、さきほど犬飼からなじられていたように、千歌はもう27歳で、港区では25歳を超えるとババァだという。千歌自身の価値は暴落し、呼べる女のスペックも下がっているという。しかし、界隈から抜け出せない千歌は、厄介者になりつつあるという。酒や睡眠不足、不規則な生活で内臓が劣化していることや、劣化した肌を高級化粧品でカバーするものの、それを若い女からは馬鹿にされ、見下されているという。若いだけのブスにも負けて性格も悪くなり、お金のかかる生活を変えることもできず、小金保ちの港区おじさんからハレもの扱いの痛い女として排除されていくのだと、千歌の現状を淡々とかたる。菅原は数馬に対し、起業して成功したにもかかわらず、劣化した千歌の何がいいのかと問う。港区おじさんの性の吐け口で、アナ兄弟だらけの不良債権である千歌を、である。数馬は迷わず「人をモノのように扱うものの言い方は嫌いです。」と言う。涙を浮かべながら数馬は、周りの決めた価値観などどうでもよく、自分は千歌そのものが好きなのだという。そこに千歌が帰ってきて「私は、周りが決めたみんなが欲しがる物が好き。」と、高級ブランドの指輪と鞄があれば裸でも渋谷交差点を歩けるのだという。成功した数馬は金持ち自慢をするが、千歌にとって大事なのはその人がいくら持っているかではなく、自分のためにどれだけ尽くしていくら使ってくれるかなのだと、除菌剤をさきほどのシンクにかけながら話す。臭いが消えないことにイライラする千歌だが、菅原は千歌が帰ってきたからか、ふたりの価値観を真逆だなと言って、女を待たせているらしく、メンヘラ起こす前に帰っていった。

菅原が部屋を出た後、千歌は数馬に、自分と価値観が違っても面倒臭いババァになっても、自分のことを好きかを確認する。数馬は「はい千歌さん。」と答え、それを聞いた千歌は、キッチンを自分の代わりに新品みたいに綺麗にすること、掃除が終わったら自分のために美味しい朝ごはんを作るように命じる。ほんらいの関係性を思い出した数馬は、朝日の差し込む部屋で千歌に寄り掛かられながら、喜びをかみしめるのであった。

感想

菅原陣営がコマをひとつすすめたというところだろうか。数馬も千歌もスマホを見られているので、壬生との関係は割れてしまったことだろう。一方の壬生は犬飼から3億揺すられて京極が世話してやると事情も筒抜けで、右腕である久我も拉致られていると、四面楚歌もいいところである。

今回の見どころは、前回から陸続きのぶぶんがあるかもしれないが、数馬が資本をつきつめ、結果、大成功できるような器にはないということだ。誘われて参加した「大人の運動会」に対する嫌悪感であったり、壬生のいう「売ってはいけないものを売っている」、すなわち、人の肉体を性的嗜好品として並べることや、差し出すことについて、何か人間の尊厳の最後のひとかけらとでもいおうか、数馬は強く拒絶している。そうでありながら、周りに定義された「いいもの」を求め、上であげたような、数馬の拒絶するような生き方をしている(おそらく小山のほかにも、不特定多数との性的交渉をもっているであろう)千歌に対して、「千歌さんそのものが好きなんです」という告白をする。ここにこそ、彼の価値観は収斂されている。以前、金があれば自分だけの女でいてほしいとお願いしていた数馬だったが、「金を手に入れれば千歌の好きな数馬はいなくなる」「私の欲しいものは永遠に手に入らない」という、一見矛盾した台詞は、まさに今回の数馬の台詞に接続されていく。

一方、千歌の価値観は自身に費やされた金額と周りの決めた理想を着実に登っていくことが彼女の「正しさ」であり「答え」である。数馬は起業して成功するも既に借金を背負っており、この一連の経験から、金を得続けた末に辿り着くところに虚しさのようなものも感じている。数馬から見たとき、この金をめぐる虚無の中に千歌は配置されている。その証拠に、千歌の東京カレンダーをなぞる人生に対し「実家のカルピスより薄い」とdisっている。しかし、それでも千歌自身に対する愛情は薄れないのである。これが数馬というキャラクターのおもしろいところだ。そして千歌は、金銭と尽した物品の量で相手を評価する。「肉体労働はしない」とももよ達を下に見つつ、行っていることはそう大きくは変わらない。そういった現実に置いて行かれたまま、年月が経ってしまったという、モンスターのような存在ともとれる。その評価が菅原や犬飼のいう「不良債権」という言葉に集約される。今回の話で千歌の年齢が判明し、(おそらく)数馬も、20代を折り返し、それまでの生き方を顧みてその後の身の振り方を考えるフェーズにきていることがうかがえた。そういった意味でも過去の栄光やかつて理想とした人生のステージというものが「愚者の偶像」といえるのかもしれない。

さて、犬飼に言われたように、数馬は強者から、千歌も自身も守るすべをもたない。それはこのシリーズの最初で、小山に酒を飲まされていじめられたエピソードからもわかる。結局そういったヒエラルキーは逆転しないまま進んでいくのだ、というふうにお話が進んでいくのか、そうでもなくなんとかなるのか、真鍋作品では前者かなーといった気がするが、あおりには「来週、急展開」とあるし、京極が小山のところに行く話が前回出ていたし、何かがふりかかるのだろうか。来週は予告に作品名がなかったため、次の話は連休明けの27日だろうか?

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