◆九条の大罪第46~48審『事件の真相』⑥~⑧

仕事が忙しすぎて感想を書くどころではなかったので、不本意ながら三週分まとめて書く。

このところのお話

  • 第45審:強姦殺人のことを思い出しながら受刑者に奉仕させる犬飼。反省の色のなさは流木とのやりとり同様である。その後、嵐山と衣笠の通話。メールの文面にある「p5」のpが、売春の値段であることを教えてもらった後、衣笠にとって小山は怖い存在だが、自分も親になって気持ちがわかるので、と前置きした上で、小山が暴力団やキメセクをちらつかせて女性を脅し、売春させていたことを教える。加えて、父と仲の悪い女は褒められた経験のなさから自信が持てず、相手の都合に合わせてでも関係を維持しようとしてしまうのだとこぼす衣笠。嵐山としても、何か思うところがありそうだ。さらに場面は変わり、九条の事務所に。店をやっているらしい金ヶ原という女性が銀行口座を作れずに困っている。昔付き合っていた男がヤクザで、薬物関連の罪で捕まったことがあるという。後ろで壬生が座っているので、壬生の紹介だろう。口座を作ろうと九条はいい、烏丸が開設の仕方を教える。なかでも最初にやるべき、警察庁の暴力団データベースの確認が大変だというが、元刑事の探偵が九条の知り合いにいて、彼が工作員として調べてくれたという。わけありの人間っぽいので、また出てきそうだ。壬生は探偵事務所を作りたいのだといい、九条に仕事を任せる。寝言をいうブラックサンダーにダウンジャケットをかけてやる九条。朝、デスクで眠っている九条に出勤した烏丸がジャケットをかけると、九条は目を覚ましたのかお礼をいう。烏丸のせいではなく、京極からの着信で目が覚めたようだ。そして、取調室で対峙する嵐山と小山。一体何で連行されたというのか。
  • 第46審:小山の罪状は詐欺罪だそうで、小山の名義で借りたホテルに京極が泊まっているという。何も言わない小山に、どうせ九条に黙秘していれば起訴される可能性は低いと言われたのだろうと嵐山はいう。何も言わない小山に、嵐山は外畠の話の事件の話を出す。何の話かという小山に対して、嵐山は、AV女優雫花ぴえんを潰された怨みで外畠への暴行を京極に依頼したのだろうと詰める。そうして、娘の名前を出すと、小山の眉が動く。当時、女衒のようなことをしていたことを愛美に暴露されそうになった口封じで、京極を使って殺害させたのではないかとさらに詰め寄る。小山は、愛美の事件については解決しており、掘り返す理由を尋ねる。何も事件は解決していないという嵐山に、愛美との関係を察した小山は反撃に出る。生理的に父親が嫌いな女性の親は、大抵娘の話を聞かない父親であり、夫婦仲も悪いと。嵐山は小山が自分語りをしているのかと尋ねるが、小山はものともせず、自分は娘とも嫁とも関係は良好だという。そして愛美について、普段刑事が逮捕している金と男が大好きな大差ない、売春婦だと言い放つのであった。接見室にて、小山は愛美の父親が嵐山だったことに驚いたことを九条に話す。警察のせいで20日間交流されることも鬱陶しいが、娘の愛美もメンヘラで鬱陶しい。事件が終わってもこうも関わることに対して、死んでもなお鬱陶しいという小山に、言い方が気に食わないという九条。しかし、仕事はキッチリしますと言い、場面は警察陣営のデスクでやりきれない思いからか机を叩く嵐山に移る。小山と別れた後、車のハンドルに拳をあてがう九条。何か、思うところがあるようである。
  • 第47審:レジのいないコンビニで店員を呼ぶ小山。だるそうな店員に対し、説教をする小山。購入したスイーツを高級車の後部座席で待つ娘に見せ、「ママには内緒だよ。」と。娘も笑顔で応じているが、なんかちょっと不気味な感じもある。仕事の電話の先は九条で、釈放になったことに対するお礼の連絡だ。電話を切った後、九条はどこか見下すような、呆れたような表情である。そこに烏丸がコーヒーやスナックを差し入れ、屋上で一服することに。のんびり過ごしている中、登録のない番号から電話がくる。出ると、娘が携帯電話を買ってもらったようで、やりとりする表情は朗らか、父親そのものである。電話について、烏丸は子供携帯は親が連絡先を登録しなければ通話ができないので、離婚した妻(つまり莉乃の母)は九条の番号を登録してくれたんだなぁと、しみじみ言う。九条も烏丸も表情にやや翳りがみられる。場面はどこかのフードコートに変わり、嵐山と衣笠がいる。小山に娘を売春婦呼ばわりされたことに何も言い返せず、情けないという嵐山に、衣笠は若い子は自分の見せ方が上手い無能にすぐ騙されてしまうし、クズの心無い褒め言葉でも欲しがってしまうとこたえる。愛美のことを何も知らないと思い知った嵐山の様子をみて、衣笠は愛美との思い出を話しだす。そこには多少のジェネレーションギャップも見て取れるが、衣笠にとってはとても楽しかったようだ。うどんに七味をたくさんかける嵐山に、愛美の影を見る衣笠。それを聞いた嵐山は「美穂さん」と名前を呼び、愛美のことをおぼえてくれていたことにお礼を伝える。衣笠は柔らかい表情で、愛美が嵐山のことを頼りにしていたであろうことを伝え、その場を去る。お礼を伝えるついでにスーパーに寄った嵐山は、「パイの宝」をみつける。生前、愛美が欲しがっていたことを思い出し、買ってあげれば良かったと、涙ぐんでその場に崩れるのであった。

感想

そろそろ『事件の真相』編も終わるのかなーという感じだ。嵐山は仕事一筋の人間だったし、今もそうだが、それが娘の声を聞き漏らす要因にもなっていた。これは小山にも指摘されていることで、おそらくまちがいはないのだと思う。事件をきっかけに嵐山は、娘の見えなかった真実の顔を主に衣笠美穂から聞き取るかたちで埋め合わせていった。衣笠も、最初は捜査の依頼というていで協力をしていたからか、見返りを求めたり、それを断った嵐山に対して悪態をついたりすることがあったが、やがて、愛美が自分の話を聞いてくれたことを思い出し、捜査に対して自発的に協力するようになっていく。というか、捜査だから、という感じでもなく、愛美が他のギャラ飲みで知り合った女性たちとは違う、優しさや思いやりと共に、自分と似た寂しさや自信のなさを感じ取っていたことまで話している。また、彼女もひとりの子どもの親となり、嵐山の気持ちを想像したうえで、話をしてくれることもあった。一方で、自信のない女性が嵌まってしまうクズ男や、親との関係が円滑にいかない娘の気持ちという、おそらく愛美も抱えていたであろうことについても、嵐山に伝えるようになる。そして最終的には、非常に穏やかな表情で嵐山とやりとりして別れている。書類上では解決した事件を調べるという、階級のピラミッドを登るのには不用な行為によって、事件の真相にたどり着くことができた。これもひとえに、嵐山の執念が生んだひとつの結果だろう。これが嵐山自身にどう響くのかといえば、最も大きなものは後悔だろう。では、愛娘を失い、事件の真相を見て、この先できることといえば何になるのか、といったところを考えると、やはり小山や京極などの、表に出て来ないものの裏で糸を引いている者たちの罪を明るみにすること、だろうか。

さて、今回の嵐山のごとく、相手の話をきちんと聞きながらしごとをしているのが九条だ。今回目を引いたのは、小山が愛美を侮辱したことについて、「その言い方は気に入らない」「だが、仕事はキッチリやります。」と自身の思いと職務とを分けていたことだ。これまでもさりげなく表情で描写されることはあったが、依頼人に言い放ったのは初めてのように思う。それもそのはず、九条にも娘がおり、愛美と同じ境遇に立たされたとして、到底許せることばではないのである。だが、第1審からいわれているように、九条は依頼人を選ばないし、顧問になるということもしない。そういうスタンスで仕事をしている。そういったとき、受けがたいのが今回の小山や京極のもってくる案件である。このあたりを差別せず受け入れているスタンスになるに至った経過も、何かの機会に見てみたい。

また、娘・莉乃からの着信についてだが、烏丸の台詞のあとからなんとなく気まずい感じになっている。というのも、おそらく妻(莉乃の母)の影がちらついたからではないかなーと思っている。九条がどういった経緯で離婚することになったかはわからないが、今、莉乃と電話でやりとりすることひとつとっても、九条と莉乃は直接繋がれず、妻の存在を経由することで初めて成り立つ。妻がシャットアウトしてしまえば莉乃へアクセスすることができなくなってしまう……そんな危うさを感じさせるシーンだった。すでに業界からは反社会の弁護ばかりしているといったような噂もあるが、妻としてはどういった心持ちなのだろうか。

さらに、九条の姓についても少し考えてみた。本来は鞍馬姓だが、九条姓を使っているというのはだいぶ前に書かれたとおりだ。鞍馬姓を使わないのは最初、九条が独立して5年=莉乃の誕生と同期している、ということから、娘との何らかのつながりとしての九条姓であると考えた。今回の通話のシーンからも、九条は莉乃を相当大切にしていることがわかる。しかし、そこには何かわけありといった空気も感じさせる。まだ、このあたりは書かれていないことが多いので、後々明らかになると嬉しい。そして、もう一つは父や兄との差別化である。節々で、九条は兄や父と縁を切っていることを話す。そのたびに、鞍馬家の者としてまとめられることを忌避しているように読み取った。鞍馬家のスタンスがどのようなものかははっきり書かれていないが、おそらく王道のキャリアを着実に歩んでいくようなものだろうと、墓前で対峙していた兄の蔵人を見て思った。そういったこととは異なる価値観、それこそ九条が兄に言った「あなたには見えないものがある」と言ったことばや、受刑が決まった後でしずくに差し入れた本のラインナップから、うわべだけのことばからすくい取れるものではない、人が生きる上でなにか「とっておかなければいけないもの」が見えているようのかもしれない。

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