今週のお話
2週連続で掲載だと心が躍ってしまう。それにしてももう80話かァ。
壬生と京極
ホテルから場所を移し、ここはどこだろう。屋外の、何かひとけのない、建物の裏側だ。そこには京極と壬生、そして京極の部下3人もいる。京極はそこでさっそく、部下に2つのことを命じる。
- 犬飼の手下を拷問して吐かせた場所から息子・猛を掘り起こすこと
- 犬飼と、その他2人の手下を埋めること
だ。彼女を猛に強姦されたと告発した男は拷問されていたが、もうひとりも拷問されていたんだろうか?もしかして菅原のことを指しているのか?まさか?まぁ、ここではよくわからない。キャリーケースを開けて、犬飼の亡骸をみた京極は、生け捕りにするよう命じたものの、殺した理由を問うと、壬生は「逃げようとしたので。」とだけ答える。
嘘と疑う京極だったが、拷問を避けるための情など壬生にはないと、目線も合わせずつぶやく。根本が自分とは異なるのだと、暴対法の影響で、クレジットカード、スマートフォン、預金通帳も持てない、雁字搦めのヤクザを続ける理由を語り始める。今の時代はさもしい人間、つまり、わずかな得のために大きな徳を失う人々が多いのだという。そして、壬生に、命をかけられる人間の存在を問う。
「この人のためだったら死ねる。」という人間の存在
伏見組の本家親分が、京極にとってのそれだったという。そのボディガードをしていた時期があったという。大好きだったハンバーガーを食べかけて倒れ、119番で症状を伝えると重症だったという。救急隊員の指示通り心臓マッサージをすると、ご老体だった親分の肋骨は折れたが、気にせず続けるよう指示をしたという。親分の肋骨が内臓に刺さって即死してしまうのではないかと、京極はテンパっていたようである。
救急車が親分の家に近づいたとき、死に際の親分が、救急車のサイレンを消すよう命じたのだという。というのも、近所に迷惑をかけないようにという心遣いであった。人事を尽くして天命を待つ……ということばが似合う親分で、死に際もぶれなかったようだ。親分のためなら何も怖くない、家族を捨てて来いと言われれば、すぐ向かえるよう身構えていたという。その存在がなくなった喪失感から、酒が増えたのだと。
感情が昂った京極は涙を流して震え、壬生の顔面を殴打する。壬生は、その気配にも気づいていたようすだったが、避けることなく受け止める。
ふたたび、京極と壬生
壬生は、自己保身のためなら飼い犬も子分も平気で殺す外道だ、と京極は壬生の頭を踏みつける。姐さん、要するに親分の奥方と思われるが、親分と京極のことをよく見ていたという。京極が親分を棺桶にいれ、着せるスーツも選ぶよう託されたのだ。ヤクザはまともな葬儀所で葬儀もできないが、ヤクザとして生きるというのは、そんなものだという。
京極と壬生の違いは、京極いわく「道理」の有無だという。野良犬だった壬生を躾けて牙を抜き、一生飼い犬として従わすと、京極はいわば「勝利宣言」をするのであった。
壬生と久我、そして……
一度、京極と別れた壬生は、一旦、久我と合流したようだ。久我はちょっと呑気なもんで、犬飼の遺体をどこに捨てるのか壬生に問う。とうぜん、壬生も実行犯ではないので知る由もない。山か海ではないかと、東京湾では毎日死体が見つかるという話をはじめる。カニや魚に身体を食われて、身元不明の死体として見つかるのだが、どういうわけか腕だけはよく出てくるのだという。そこで、壬生はブルーハーツの『僕の右手』が脳内再生されるのだと、そう言いながら、両腕に重たそうなバッグを抱えて歩き始める。久我に全てを託して、警察署に赴く壬生。そう、久我は壬生を、送り届けたのだ。九条の「独り言」にしたがって。
そして、ふたつのバッグは嵐山のデスクに置かれた。訝しそうな目を向ける嵐山に「京極から預かった道具」だと、出頭するのであった。
感想
犬飼、ほんとうにあっさり退場したなあ。このサクサクとした展開は時代にあっていて、ウシジマくんの頃よりスピーディーだなぁとたびたび感じさせられる。
今回は京極の語りがだいぶ多かった。この語りは、今でいう鍛冶屋のようなこころもちでヤクザをやっていた頃のことなんだろうなと感じさせられる。まぁ、鍛冶屋が元ヤクザということで、だいぶ立ち位置が異なってきており、呼び出されてもいるので、このあと何かしら展開する役回りがあるのだろうけれど。
さて、この「だれかに自分の体を賭けられる」という感覚とでもいうのかな、そういったものを、京極はとても大事にしているように思う。だいぶ昔になってしまうが、壬生の愛犬おもちの死の真相が描かれた際、「半グレは上に忠誠心がないんだな。ヤクザは上をうたわないぜ。」と下に見ているようなせりふがあった。このときも壬生の行いに対して、殺すつもりであったが、「忠誠心を見せたら今回は許す。」と選択肢を与えていた。そのうえで、愛犬おもちを殺すことを壬生が(半ば強制的に)選択し(させられ)、京極の支配下におかれるようになった。このとき、壬生は京極を殺して自分も死ねばよかったと、後悔の念をみせていながらも、「今じゃない。俺にはやらなきゃいけないことがある。」と腹を決めたような表情をしている。
この、「やらなきゃいけないこと」が何かはわからないが、今回、壬生は九条の助言どおり、京極の武器を携えて出頭した。こうすることが、京極の言っていた「牙を抜いて飼い犬として従わす」ことを避け、壬生の「やらなきゃいけないこと」を実現できる、か細い可能性である、と判断したのだろう。壬生はここまでの行動をみていても、合理的にものごとを判断するキャラクターである。京極のいう道理にかなっていなくとも、壬生のなかにある道理に対して非常にスマートに判断し、動いている。これまでも、菅原の介護施設に久我を送り込んだり、犬飼・久我を京極を倒すために共闘を提案したりと、自身の目的に対する一貫性はみられる。
一旦こうなると舞台からおりるかたちになる可能性が高い……が、今回のサブタイトルは「至高の検事」ということで、事件としての立件がどこでなされるのか、そのタイミングや、エピソードの中に事件が詰め込まれすぎていて、どういう感じのなるのかなど、全然法律のわからない自分からすると予想がつかない。
少しだけ法律をかじるようになって、「消費の産物」編をよみかえしてみると、しずくの自由は様々な形でいろいろな大人から奪われていたのだなと思うと同時に、九条のかたる権利と亀岡のかたる権利の文脈が異なっているがゆえに、議論がまとまらないのだなと感じさせられた。こういうのは現実にもあるんだろうな。
勉強続けつつ、来週はどうやらお休みのようなので、29日、だろうか。
コメント