今週のお話
台風のような荒天のなか、数馬が江ノ島にきている。妹の数恵が行きたいと話していたところだ。しかし、数恵はおらず、ビデオ通話をしている。実況中継のように、数馬は見えたものを伝えている。その一方で、表情はさえない。かつて、千歌と訪れた場所で、その日も台風だったのだ。
千歌との暮らしはだいぶ、荒れていたようだ。頼まれた高級アイスクリームを床に投げつけ、月経前ならいちご味だろとキレている。数馬は正論で応戦するも「全種類買って冷蔵庫に並べとけよ!」と、とりつくしまもないようすだ。そこから口論になり、千歌は妹のための2億と、自分のためのアイスを天秤にかける。千歌のエゴと妹の命をくらべるなと正論を返すと、千歌は部屋を後にするのだった。
数馬は千歌と別れてから、小山以外にもパパが2人いたことを知り、酔っ払うと貯金額がすごいと自慢していたことを思い返す。プレゼントした財布もその時以来見ていないといい、会計はすべて人に払わせるほど、金への執着心が異常だったという。そして、数馬の太客であったモモヨは千歌にいいように使われ、アメリカ在住の中国の富裕層に売春した結果、梅毒に罹り、港区のおじさんたちにうつしたことも、どこかから聞いたようだ。
数馬は江ノ島を巡りながら回想する。そうして結局、千歌は金持ちの老人と結婚したのだそうだ。家族からの反対もあったが、千歌の尻に敷かれ、全財産を相続させる遺言状を書いて婚姻届に捺印したという。老人は不能で、精子バンクを用いて子供を作る話もあったようだが、体型を崩したくないし子育ては面倒だと千歌は拒否したようだ。それなので、性生活としては、女性用風俗のキャストを高級ホテルに呼び、老人の前で性行為をするのが恒例になっているが、千歌が本気で絶頂しそうなとき、嫉妬で老人は止めてしまう、そのことが千歌は不満だという。炊事も全て拒絶し、身の回りの世話は家政婦と馬鹿なモモヨにやらせている。それでも、老人は千歌がいるだけで嬉しかったようで、金の関係と言われようと、最後に惚れた女が看取ってくれるならありがたいと思っていたのだろうと、数馬は考える。
千歌は食事に金を払う人間に対しては心からご馳走様と言っていたことや、実の父を下の名前で呼んで小馬鹿にしていたが、よく地方都市の実家に帰って両親を大切にしていたこと、そんな優しいところを老人は見ていたのではないかと、焼きとうもろこしを食べながら振り返る。そんな千歌が唯一自発的に人のためにやっていたのは耳掃除くらいで、食べたい物を食べた時や、欲しい物をもらった時と同じ表情だった。数馬は千歌と、江ノ島でお参りをしたことを思い出す。願ったことを数馬が尋ねるも、千歌は内緒だという。そして海沿いに戻ったとき、数馬は千歌に何を見ているのか問う。千歌は「私の未来。数馬との素敵な生活。」と、やりとりをしたことを思い出し、号泣する。
場所は元に戻り、壬生が数馬を、産業廃棄物の処理場のようなところに呼び出したようである。数馬はここがなんなのか尋ねる。壬生はそのまま話す。九条に間に入ってもらっている案件であることもだ。そして、本題であった、飲食店のフランチャイズの元金1億について尋ねる。数馬はそれを毅然とした態度で断り、いちからスタートアップすると語るのであった。その決意を聞いた壬生は数馬を評価し、一方で、お人好しすぎることを案じて助言をする。ゼロからイチを作ると、それができない愚か者が群がってくる。愚か者はイチを模倣し、ゴミを大衆に売りつけるのだと。大衆が、そんなゴミをありがたがることを、愚者の偶像としてあらわす。壬生のワードセンスは、なかなかに切れ味がある。それを聞いた数馬は、どこか心当たりのあるような表情をみせる。そこに九条がやってきて、数馬は詐欺事件のお礼を渡す。そうして、いつか興した会社の顧問弁護士になってほしいと、九条に伝えるのだった。九条は、人の信頼関係をお金で買うということかと尋ね、数馬は肯定する。すると九条は「私とあなたの間に信頼関係があれば、」と意味ありげに返すのだった。
感想
全15回と、長めのエピソードであった。数馬という人間がさまざまな社会の裏側を覗き込む、いわば読者のわたしたちは、数馬の目線から物語を読むことが、多かったのではないだろうか。いっぽうで数馬の父親への感情や上澄みのような言葉の羅列などをみると、なんだかなあといったモヤモヤ感も、おぼえてしまうところだ。
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