◆『九条の大罪』第10審「家族の距離❷」

 初週からしごとが燃えてしまい、タイムリーに感想を書けなかった。今回が5,6号の合併号で、次の話が8号に連載なので、書く猶予はあんがいあるなというのもあって、少しのんびり構えていたら体調を崩してしまい、途中だけど今週書ける時間と気力がなさそうなので、投稿してしまう。

今回の話

 1話の中で複数の場面が出てくる本作だが、今回はいつもよりシンプルで、前回の九条のジョギングの続きと、金本の検死に立ち会う警察官たちの話となる。

 雨が降るのも気にせず、九条は右手に花束を持って、墓地へ入る。墓標には「鞍馬家之墓」とあるので、父親の命日に墓参りにきたという、しごくわかりやすいシーンである。墓の規模からして、ふつうの家のそれより広く、りっぱな作りをしている。このことから、鞍馬家がそれなりの財産をもった家系であることがうかがえる。手を合わせる前に九条はウインドブレーカーのフードを被っている。雨足が強くなってきたのかもしれない。
 手を合わせる九条の後ろから、傘をさした男が「勘当された人間が人様の墓で何をしている?」と問う。次頁、見開きで九条と男が雨の中静かに向かい合うシーンが描かれる。男の名は鞍馬蔵人、九条の兄であり、検事をしている。険しい目つきの蔵人をみた九条は「タイミングがいつも悪いな。言われなくてもすぐ行くよ。」と返す。戻ろうとした九条に対して蔵人は、墓が汚れるので花を持ち帰れと命じる。九条は怪訝そうな表情をみせながら、高圧的な命令口調が父親にそっくりだと、花を取りながら悪態をつく。それに対して蔵人は、そういった口調になるのも、九条のだらしなさに由来しているといい、学生時代に遊び呆けて5回も司法試験に落ちた馬鹿な半端者が事務所を立ち上げていることが気に入らないようだ。そんなことだから、ロクでもない連中のロクでもない案件しか仕事がないのだろうと嫌味すら言ってみせるしまつだ。九条の悪い噂は蔵人の耳にも入ってきており、鞍馬家の恥さらしだと言ってのける。それを聞いた九条は、去り際に「あなたには見えなくて私には見えてるものがある。」とこたえる。それは何だと蔵人は問うが、九条は「自分で考えるといい。」と言う。蔵人は、それは逃げであり、九条は逃げてばかりの負け犬だと言い放つ。九条は「好きに言え。話す気にもならんよ。」と墓地を後にするのであった。

 場面は変わって、警察が金本の遺体を回収している。前シリーズ「弱者の一分」の終盤から、時間は地続きのようである。シートを被せられた遺体の傍で、先輩とおぼしき警察官が新入りの警察官に声をかけ、唐突に「ポッキーが食えなくなるぞ」と言う。新人は意味がわからず「なんでですか?」と問う。先輩は新人に「ご遺体のケツに突っ込め。体温で死亡時刻を予測できるんだ。」と、計測した後の体温計がポッキーみたいになるので食べれなくなるのだ、と事の詳細を話す。これを聞いた新人は平静を保っており「それ、スナックでポッキー片手にホステス口説くネタですよね?体温計を突っ込むのは捜査官でなく検視官の仕事ですし。」とツッコミを入れるのであった。
 その後、先輩と新人は、焼肉店に来たようだ。座席にはもう1人、曽我部の取調べを担当していた嵐山も同席している。箸の進まない新人を気にかけると、新人は「さっきの水死体、えぐくなかったですか?豚足みたら思い出してしまって吐き気が。」と、憔悴しているようすだ。嵐山は笑いながら、ホルモンを食べられなくなった時期が自分にもあったが、すぐ慣れるとフォローをする。新人がそれについて問うと嵐山は、1日何事もなく、日のでているうちに酒でも飲もうというノリになっていた時に、事件があったという。中華屋で店員3人を牛刀で切り殺し、犯人は精神異常者で犯行後に電車に飛び込んで死んだのだと。店内は血の海で、4人の遺体の現場検証をして手当が1600円だったとこぼす。店内に散らかっていた内臓の感触と匂いでしばらくホルモンを食べられなくなったが、慣れてくると全く気にならなくなったという。
 先輩警察官が話を遮り、金本を殺した犯人の話になる。嵐山に敬語でないことから、先輩警察官と嵐山はほぼキャリアが同等とみてよいだろう。先輩警察官は、犯人は伏見組の人間だろうと踏んでいるが、嵐山は壬生を疑っている。壬生は、若い頃は警察の世話になることも多かったそうだが、今は知恵がつき、表向きは真面目な自動車整備工場の社長、裏では伏見組とつながり、セキュリティや水商売で荒稼ぎをしており、半グレと揉めて和解金をせしめながら勢力を伸ばしているという。金本の件で取調べをしたが証拠は何も出てこなかったと。
 さらに嵐山は、壬生の近くにいる弁護士が気に食わないと言う。それに対して先輩は「不良(裏社会の人間や半グレを指す)の周りにウロチョロしている弁護士は小蝿みたいに目障りだ。」と、新人は「あーゆう弁護士はすぐにヘタこいてバッチ飛ばしますよ。」と返すが、嵐山は既に九条の腕を認めている。金本のような人間は周りに捕まった人間がたくさんいるので法律を知ったかぶって自分勝手に余計なことを喋るのが常だというが、それを完全黙秘させて釈放させているところにその実力を見出している。九条は警察にとって「いずれ厄介な存在になるぞ。」と、嵐山は断言する。その頃すっかり雨は止んでいる。九条は屋上の住居へ戻っており、金本の愛犬ブラックサンダーに餌を食べさせるのであった。

感想

 シンプルながらもシンボリックなシーンが多い1話だった。

 まず九条と兄・蔵人が対面するシーンだが、この見開きの効果は大きく、対照的な2人をまざまざと映し出している。ラフなジョギングスタイルに対するフォーマル、傘や、髭の処理の有無など、似ても似つかぬ兄弟であることがこのひとコマでわかる。蔵人の高圧的な態度を「親父にそっくりだ」と九条は言っているが、父との関係が悪かったことを考えると、この父の写し身たる兄との険悪さは理に適っているといっても差し支えないだろう。蔵人は、こういった話しぶりになるのは九条のだらしなさが由来していると言うが、「司法試験に5回も落ちた馬鹿な半端者」「ロクでもない連中のロクでもない案件」「鞍馬家の恥さらし」といった言葉のチョイスから、蔵人にとっての正しさや良さといったものは、その人のもつステータスや、所属するコミュニティに基づいて形成されていることがうかがえる。
 ちなみに、司法試験のことがわからずに調べたのだが、受験資格は、法科大学院修了もしくは司法試験予備試験合格から5年以内に5回受けることができるようだ。司法試験は年に1回なので、5回落ちている九条は落ちた後、どこかのタイミングで、もう一度受験資格をえるための勉強をしたことになる。ウシジマは初期のエピソードで年齢が判明していた(ちなみに23歳と、相当見た目と実態に無理のある設定であった)が、九条はいったいいくつなのだろう……。

メモ

 家族の距離、というタイトルは複数の家族を横断してつけられている。
 嵐山は過程を冷静に分析できる警察。

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