◆雪解け

 数日前にふと気づいたことがあって、どうしてもそのことについて書きたい。それは、転職をして最も変化したのはわたしの心だった、ということだ。

 わたしは16歳ごろと21歳ごろ、恋愛における強い傷つき体験があり、それ以降、むざむざ傷つくまいとじぶんの心を閉ざした。そういうふうに過ごしていると、本来持ち得た感情は徐々に凍結していく。わたしはここ最近まで、非常に表面的な関係を構築しており、とうぜん、そういった関係は非常に脆弱で、ときには思わぬトラブルが起きることもある。
 自分を守るために防衛的な対人関係のスタイルを作り上げても、状況は一切安定しなかったのである。それどころか、本当にほしいものが手に入らない欠損の感覚とままならなさだけが、わたしの中に堆積していた。

 それが、今の職場になってから大きく変わった。
 今の職場は、元々知っている方が声をかけてくれて辿り着いた。その方は現在わたしの師にあたり、広く深い知識と、ユーモアに溢れた魅力的なひとだ。
 師に聞けば、わからないことも不安なことも、かならず論理的な説明として返ってくる。緻密で誠実に編まれたことばの返ってくることが、大きな安心感をもたらすのだった。
 思えば昔から、なんとなく雰囲気を読んで渡り歩かなければならない、言語化されていない環境や、論理のない説教が理解できずにいた。就学前、母に「女の子だから赤にしなさい」と、黒いランドセルを拒否されたことは、自分でも異常だと思うのだが……非常に強く脳裏に焼きついている。

 そんな世界に身を置いて4ヶ月、安心できる環境にいられたことで、ことばたちは心の深奥にたどりつき、凍結した感情を徐々に溶かしていたようだ。気がつけば、心の奥底から湧き出た感情をそのまま表せるようになってきた。脳を経由しても抑圧されたり破壊されたりすることなく、引っかかりのないかたちで外に出ていく。
 こんなにも引っかかりのない気持ちになったのはいつぶりだろう。「ヒトの感情とはかようなものであったか……」、そんな言葉が思わず出てしまいそうになる。感情のひとつひとつがあまりにもみずみずしく、今年30を迎える人間が持つにはしょうじき手に余る。
 それでも、ありのままをさらけだせる安心感にはかなわない。加えて、それを受け止める先があることも、このうえない僥倖だろう。

 読んでくださり、ありがとうございます。正直なところ、急に感情がみずみずしくなってしまったので混乱しておりましたが、きちんと順を追ってひもとくと経過があるものです。そういうのを分析するのはおもしろい。

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