『死神』から入り、引き続き本屋にある在庫を聞いて買うといった古典的なやりかたで出会っていっている。こちらはタイトルからして「どういうことなんだろう?」と思いながら読み進めていった。ちなみに、こちらを読み終えたのは9月なのだが、このときはあまりにもしごとにムカつきすぎて、文章を書くことで発散していたのか、公開日とのズレが生じてしまった。
文庫で160ページ強と短めなのですぐに読み終わるが、エッセンスはしっかり濃い。ひとつひとつのエピソードにこもった表現たちがぜんたいの物語を凝縮させている。思春期にありがちな自我の拡大や、自分と他者との対峙など、なまなましいほど詳細に描かれている。物語半ばだったかな、ヒロイン?とおぼしき人物と恋仲のようになったシーンの描写がとても印象に残っていて、光景を目の当たりにしているような、今手に取ったような感触すらあった。
作品自体は2022年頃に出ており、著者も40代半ばくらいだろうか、その頃の感覚や思いを記憶から掘り返したかのようなみずみずしさであった。実際、本編も40代の主人公と10代の回想が交互に繰り広げられるので、この書き方が当時の感覚を思い出すのにはやりやすくて合理的だった可能性がある。著者の対談がYoutubeにあって読んだのだが、苦しみの中で生きることと死について語っておられた。そのあたりの考え方や価値観についても、作中に出てくる描写と重なるところがあり、あまりにも弱く小さな自己が、強大な世界で生きていくための、著者なりの向き合い方とでもいうのか、姿勢を感じ取れた気がした。決して自身を大きくみせることなく、抗うことなく、一方で、芯にある思いは捨てず、細くても折れない花のような感じがこの作家の魅力なのかなぁと感じる。
読んでくださり、ありがとうございます。日本の現代作家さんの中だとだいぶすきかもしれません。

コメント