◆感想『九条の大罪』第69審「至高の検事」

今週のお話

今回は九条と烏丸のやりとりが主で、そこに犬飼陣営、すなわち京極の息子との対峙のシーンが挟まるかたちとなる。

ふたりは、警視庁にそれぞれ車をおいて、近くの公園で話をする。コーヒーやスコーンなど、さきほど九条は屋上バーベキューをしていたはずであるが、軽食のようなものをそろえている。烏丸は今、流木のところでイソ弁をしているようだ。勧められたコーヒーを断り、接見かという問いを否定する。烏丸は単刀直入に、自分に聞きたいことがあるのではないかと尋ねるも、少し間をおいて、九条はなんでもないのだという。

烏丸は、自分の忠告通り、京極の依頼は断るべきだったという。嵐山が九条を追い詰める要因になるにもかかわず、なぜ壬生のような反社で依頼を受けるのかと、九条のところを去る前に尋ねた問いを今一度投げかける。九条は以前と変わらず「弁護士の職責だから」と答える。すなわち「被疑者、被告人の権利や利益を擁護すること」だと。それに対し烏丸は、その任務を果たすために弁護人が負う義務は、誠実義務と呼ばれるのかどうか問い直す。九条は烏丸のことばを止め、今自分たちのいる公園も見えないだけで、法律や規律、規則でガンジガラメだといい、禁煙や歩きスマホ禁止などといった、普段なにげなく置いてある看板が描かれる。日常的に、目に見えない法律が存在しており、どんな人間にも法律だけは平等だと思っていると九条は言う。その結果、九条は追い詰められているではないかと、烏丸は痛いところをつく。人は自己保身で、平気で人を裏切るので、依頼者と近いことは危険だと。

一旦、舞台は犬飼と京極の息子にうつる。チェーンソーを起動させた犬飼は、バラバラにしてクーラーボックスのような箱に入れるよう仲間に指示をする。京極はこんな状態でも強くな口調で、自分の父親が組の若頭であることをダシにして、犬飼たちを制止しようとする。犬飼は動じ流様子なく、なおのこと、口封じをする必要があると冷静に判断するのだった。その目に迷いはみられず、情を捨て去っている。

烏丸は、法律の話ではなく、九条の感情について尋ねたいのだという。感情を押し殺して生きていると、生きているだけで精一杯になると、まるで年長者が後輩に言うようなことを言ってのける。九条は「そうですか。」と一旦受け止め、「なぜ、弁護士になったのか。」と質問を投げ返す。東大法学部の主席であれば、弁護士ではなく官僚の道もじゅうぶんにあったはずだと。そこから烏丸は、弁護士を志すきっかけとなった事件について語り始める。被告人は死刑を望んで無差別殺人を行ったようで、その事件の裁判を、小学生のときに傍聴したのだという。殺した側、殺された側、双方の理由や心境も理解できない状況の中、烏丸は、法律だけが機能していて明確だったのだという。そこから、法律と、そこに関わるものを知ることで、生きる意味を探求することにしたのだという。九条は、自分もその裁判を傍聴したといい、烏丸はそのことすら知っている。被害者は自分の父親で、殺人犯の弁護を流木、そして、検事を鞍馬が務めたことをあきらかにする。九条は静かに、鞍馬が自身の父親であることを告げる。ふたりは当時、傍聴席の最前列に隣同士、今のような仕切りもなく座り、事件の顛末を見届けていたのだ――。九条はまだ弁護士バッヂをつけておらず、法科大学院かなにかの学生だったのかもしれない。そして烏丸は小学生、にしてはだいぶ大人びているが、おそらく高学年くらいだろう。

感想

繰り返し出てくる九条の「弁護士」のしごとに対する考え方に加え、烏丸の弁護士を志すきっかけがでてきた。そこで印象的なのは、みずからの父を不条理にも奪われたなかで「法律だけが機能していて明確だった」ということばだ。それは九条のいう「どんな人間にも法律は平等だと思っている」ところに対応しているようにおもわれる。そこについて、両者の見解は似ている。

いっぽうで、置き去りにされる側である感情について、ふたりの見解は割れている、ようにみえる。九条にたいして、感情的なぶぶんを聞きたいという烏丸の意図は、自身の弁護士にいたるきっかけを思うと、自然とみちびきだされるものだろう。いっぽうで九条はどこかにそれを置いたうえで、自身の職責を果たしている、とでもいうように、烏丸の問いをすり抜けていく。烏丸は感情の行き場として、法と、それに関わるものを理解することを通して解消しようとする。しかし、九条はそうではなく、まったくべつのものとして、感情の部分は弁護士の職責には立ち入るべきではない、とでもいうような勢いすら感じられる。おそらく、ここのやりとりは平行線で終わってしまうことだろうが、その不可解さこそが、かつて烏丸が九条にイソ弁を依頼したときの「九条先生、面白い」という部分であり、その「面白さ」こそ烏丸の感情のぶぶんと密接に結びついているようにおもわれる。このさき、烏丸の過去のところが少しでてくるのかなーとおもわれるが、2人の関係性が戻っていくのか、はたまたさらに変化していくのか、楽しみにしている。

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