『わたしを離さないで』(著・カズオ・イシグロ、訳・土屋政雄)

高校の頃課題図書で出ていたような気がするのだが、そのときは音ゲーまっしぐらで、本を読まないことはなかったが、スルーした一冊。大学の後半頃からSFを読み始め、ちょっと前に出た『クララとお日さま』が気になり、そういえば……と課題図書として出ていたことを思い出し、先に読もうと手にとってみた。文庫版で400ページ超あるが、読みやすい文体で目にやさしい。お話自体も構造としては複雑すぎず、しかし、どうしてこんなに惹かれてしまうのか……それは常に常に物語から醸し出される違和感と不気味さだったのかな、と読み終えた今は思う。

主人公が介護の仕事をやめる、というところからお話ははじまる。今読むと、高齢者の介護を想定するが、どうやらそういう感じではないらしく、主人公の幼少期ともかかわっているようである……と思っていると、幼少期のエピソードが自然とさしこまれる。語られる視点は現在の主人公なのだが、その中での時間の動きは、現在と過去を行き来する。往来するなかで、だんだんとこの物語の世界観や価値観、謎が一体何なのか、輪郭がみえてくる。「提供」「保護官」「ヘールシャム」とは一体なんなのか、子どもたちは育っていくにつれ、何を思い、どのように行動していくのか、そして、今……。ぐいぐい引き込まれてものの数日で読み切ってしまった。冒険活劇のようにスッキリとしたラストでは決してないのだが、読後感は決して悪くないのがふしぎだった。

こういった文学との出会いは稀有で、また機会があったらとてもとても幸せだと思う一冊だった。時間をへて再読したい。

読んでくださり、ありがとうございます。読んでいる間はもう「早く退勤して読みたい!」という気持ちを強く引き起こす1冊でした。

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