◆オウトヒメ

今日書く話は年末のことなのだが、晴れ晴れとした空気のなかで投下するにはあんまりな内容なので、あとにした。なお、タイトルから予測できるようにすがすがしい冬の朝とたいへん不釣り合いなので、ご承知願いたい。

去る30日、忘年会に行ったときのことだった。食べている最中、急に不快感がこみあげる。その日の体調はよく、きもちわるくなる気配はなかった。しかし、刻一刻と胃部の違和感は増していく。ちょうど先月吐くかぜを経験したこともあって「これは吐くタイプのやつだ……」とさとり、そっと席を立った。

出先でもっとも守られた場所はトイレか。トイレの個室か。さいわい見知ったビルだったので空いているところまでなんとか歩き、個室を確保する。ちなみに、店から一番近いトイレは大混雑する飲食店のそばに備えてあるというのに2部屋しかなく、つねに大行列が形成されている。なんなのか。理不尽である。服屋のそばに個室がたくさんあってもしかたがないではないか。追い詰められているので、思考がかたくなだ。

なんとか閉鎖空間にのがれて安心したのも束の間、吐こうとしても吐けない。なにをかくそう、外出先で吐いたことなどないのだ。そもそも、トイレはほんらい吐く場所ではないので(それにしても、本来吐く場所というのは、いったいどこなのだろう)抵抗感がある。抵抗できている時点できっとこの吐き気はたいしたことがないのだけれど、その最中に自分を観察できるほど冷静にはなれない。

とはいえ、吐かずに戻れるわけでもない。どうしたらいいのか。見知らぬ女性の雑談がきこえる。外に列が形成されているのだ。焦燥感がつのる。個室だというのに、なぜこうも余裕がないのか。そんななか、みっともなくかがむわたしの目にとまったのはTOTOの大発明、トイレ用擬音装置「音姫」だった。ふだん見向きもしないボタンに光を見出し、震える指でなんとかボタンをおした。清涼な水の音がながれた。節水とかトイレットペーパー節減とか意識高いものではなく、わたしはただ音姫にまもられたのだ……。流水の擬音とともに、つっかかっていたものがごそっと流れていくのを感じた……。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。ほんとうにすみません。

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