◆『九条の大罪』第34審「消費の産物」❼

今回のお話

しずくは「雫花(しずく)ぴえん」としてAVデビューしたようだ。売れ行きは絶好調で、しずくとしても充実感をおぼえている。歌舞伎町にいる旧友たちのパシリにも言い返せるようになり、旧友が推しているNo.1ホストから声をかけられるなど、だいぶ状況は変わったようだ。しずくからすれば「形勢逆転」だろうか。儲けているわけなので、修斗も当然、しずくを祝う。朝ドラに決まった旬の俳優がしずくに興味を持っていると修斗は言うが、しずくは修斗がいれば他はいいと興味を持たない。

場面は変わりしずくの母の恋人・外畠がしずくの帰りどきを聞いている。彼女は関心がないようで「一人暮らし始めたんじゃないの?」と答える。その後、彼女の働くスナックで、外畠は韓国から輸入した、高級ブランド品のレプリカを質屋を騙して売ったといい、知人にそれを売りつけようとする。疑う知人だったが、押し切ったと彼はうそぶく。知人は、そもそも外畠に貸している金を返してもらうために会いにきたのだと断る知人だったが、根性焼きをかまされ、「25万儲かる。借金もチャラだ!文句ある?ないのか?ないなら、弱い立場を受け入れろ。」と半ば強制的に買わせようとする。そこにしずくの母が仲裁に入るように、スナックのつけを払うように言うが、「お前が立て替えろ」と傍若無人な態度で店を出ていく。そのあとで、「今頃、時計売りつけて高級ソープの予定だったのに!クソ!」と本音が出る。どうやら時計は鑑定士に偽物とばれ、売れなかったのを押し付けようとしたようである。そこから、しずくを性的な目でみており、その手段として母親と付き合っている可能性をにおわせる。何一つ成就しないまま帰宅した外畠は、仕方なくスマホでアダルト動画を漁る。そこで、しずくの出演している動画を見つけるのであった。

さて、粟生率いるAVメーカーを相手取った白石桃香だが、九条がうまく説得し、示談に落としこんだようである。だが、小山(京極から紹介を受けた、AV会社の代表取締役)一度業界に楯突いたからには返り咲くことはできないという。AVをあがった子には幸せになってほしいと話すが、売れた女優は必ずもう一度戻ってくるのだという。他にまともな仕事などできず、AVをしていた頃に居場所があった頃のよさがあったのだろうと話す。そんな話の背景には、修斗としずくがホテルのバスルームで仲睦まじ苦している様子が描かれている。つまり白石も、DV彼氏のことがあった一方で、安心できる居場所としてAV業界があったのかもしれない。

最後に、亀岡と取材会社とのやりとりのシーンに映る。どうやら亀岡から連絡を入れ、インタビューの延期を頼んだようである。亀岡は、白石の件について伝え、「弁護士」の入れ知恵でAV強制出演の件はメディアで扱えなくなり「やられた」と言う。しかし、別件でもっと深刻な問題提起ができそうと笑顔で話す。オフィスの一室だろうか、亀岡の先には外畠が座っているのであった……。

感想

今回のところから想像できるのは、「外畠がAVに出演しているしずくを見つける(今回)→出演強要の示談金目的で亀岡に接近?→何らかのかたちでAVを降ろされる→AVを降りるため、修斗が会わなくなる→商品としての価値しかない自身に気づく→修斗を殺害する」というような流れがひとつだ。ただ、これではムーちゃんと同じ刺青を入れたことの説明が抜けてしまうのだが、大まかにはこんな流れじゃないかなぁ、と思う。

まぁ、どういった展開になるにせよ、しずくが修斗を殺すことのきっかけは、これまでのところを読むと、しずくが「自分に商品としての価値しかなかったことが」わかったからである。となると、AVに出演して稼ぐことは修斗との距離が近いまま過ごせること、すなわち、しずくにとっての居場所が担保されることである一方で、AVに出られなくなる・もしくは稼ぎが悪くなることは修斗との距離が離れる、最悪の場合断絶されることを意味する。今回の小山の話によると、AV業界はAV女優にとっての居場所になることもあるらしい。白石桃花の話の流れでそれがでてきているので、おそらくメーカーとの関係が良好だった白石にとっても、業界は決して居心地の悪いものではなかったことが予想される。

そこから考えると、やはり白石の最初の訴え(AVメーカーを訴える)は、亀岡の思惑に乗ったということになる。その証拠に、示談の形でまとまったことを「弁護士の入れ知恵で」と亀岡はメディアに伝えている。そうすると、前話の「思想家や活動家はいい弁護士じゃない。」という九条のセリフとの整合性がとれる。今回の件について、亀岡は自身の思想の表明として白石を利用したという解釈ができるし、九条もおそらくそう考えたのだろう。ただ、白石はこれによって、AV業界に戻ってくる事が難しくなってしまった。同様にしずくも、外畠を通してAV業界との関係を悪化させられ、不本意に業界を降りることになるのではないか、と思う。

さて、外畠は自身の欲求に忠実で、自己中心的な人物として描かれている。彼の行動からもそれは読み取れるが、なかでも印象的だったのは「俺がルールだ馬鹿野郎!」というせりふである。法律を扱う本作において「ルール」という近似のことばをチョイスしたのには何か意図がありそうである。ここまでのところをみても、

  • 性的欲求を満たすためにしずくを強姦する。
  • 金目当てで偽物の時計を質屋に入れようとする。
  • 金目当てで知人を騙し時計を売りつけようとする。

と、自身の目的に対して法律を無視した行為を躊躇なく行なっているのである。「俺がルールだ」という表明と、実際に他者を顧みない行動とのマッチングは最高である。それ以外に彼を表す適切な言葉があるだろうか。
また、今回亀岡に近づいたのも金目当てだろう。どういったコネクションかは不明だが、スマホで調べて性犯罪やフェミニズムに関して強い弁護士としてヒットした可能性もある。そして、一方の亀岡としても性産業は自らの信条に反する、撲滅すべき対象である。白石の件をみるに、彼女が心の底からAVメーカーを訴えたかったわけではないと判明した今、亀岡の意図によって案件が大掛かりなものになる可能性は十分にありえる。しかも、しずくは18歳とはいえども未成年である。血縁のような法的繋がりがなくとも、保護者代わりだと名乗って外畠が面会することで、亀岡はうまく立ち回る術を教授できるだろう。ここでもしずくは、他者による「金」目的の意図で利用されることとなるのだ。すでに修斗にも金銭的意図で利用されているにもかかわらず、修斗との距離を引き離される可能性が高い線が濃厚に浮き出てきた、そんな一話であったと読み取る。

読んでくださり、ありがとうございます。居場所というのは深めたいひとつのテーマです。

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