◆『九条の大罪』第54審「愚者の偶像」⑤

今週は休載で、来週から。

今週のお話

今日は千歌と数馬の話からは少し離れて、九条、烏丸、壬生、そして京極の話だ。

京極は、九条をラブホテルに呼び出したことを詫びる。小山名義で借りていた高級ホテルを詐欺罪で逮捕されたようだ。これは「事件の真相」編で書かれており、20日で釈放の手解きをしたのも九条だが、京極としては納得がいっていないようである。九条が呼び出した条件を尋ねると、京極の所属する伏見組の若衆がみかじめを回収したところ、刑務所で服役している組長も共謀にされてしまったそうだ。伏見に九条のことを話したら関心をもったといい、面会してほしいと京極はいう。

肯定も否定もせず、その場を後にする九条。京極の部下とおぼしき者が送迎を申し出るが、車で来ているのでと断る。その様子を見て何かを思う烏丸。無言のまま、車は走り出す。途中、京極の弁護を聞いて連絡を寄越した裏社会の人間からの連絡が入る。一度事務所に来るよう九条は促し、やりとりを終える。古びたアパートの近くで車を停めると、烏丸は歩き出した九条に、今の状況をどう考えているのかと声をかける。何か言いたげな様子を言葉尻から読み取った九条は、振り返らず、具体的に言うよう返す。烏丸は、今後の判例として価値のある案件であれば、引き受けるべきだという。それに対して、最近の九条は反社会性力の使いっパシリのようだと言い放つ。しかし、九条は否定しない。烏丸は、代理人として関わる中で、反社の人間の行動原理を多少理解したという。それは「自己保身のためなら簡単に証言をひっくり返す人間」だ。そして、「いつかさされますよ。」と九条の身を案じる言葉も投げかける。言葉を受けた九条は何も言わない。

場面は壬生の自動車工場、久我とのやりとりに移る。犬飼が出所したことを、世話をしている人伝に聞いたようだ。舎弟であった犬飼が連絡を寄越さない理由を壬生が問うと、久我は、悪い噂を耳にしたという。そこから場面がさらにうつり、犬飼と対面しているのは、「家族の距離」編で介護施設を運営していた株式会社輝幸の代表・菅原だ。菅原の後輩である綾部に、犬飼は服役中、世話になったようだ。少年刑務所は後ろ盾がないとキツいらしく、壬生の後ろ盾を失って地獄だったろうとスマホをいじりながら寄り添う。犬飼は肯定しつつも、自分が地獄にする側に回ったという。菅原は壬生への恨みについて問う。「事件の真相」編に描かれていたように、犬飼は壬生から、300万で殺しを請け負った過去があり、服役10年の刑を受ける。その恨みから、壬生から3億奪う、渋れば殺すと、これも以前のエピソードにあった。それに対し、壬生に一泡吹かされた菅原も「いいね。」と、SNSのごとき軽さで同調する。これを聞いたであろう壬生は、険しい顔つきになる。しかし3人とも入れ墨がいかついな。

さて、場面は九条と烏丸に戻る。烏丸は九条に、伏見の案件は断ってほしいという。断れないというなら、九条と一緒にいることはできないと、先に歩いて行くのであった。九条はなんとも言えない表情で立ったままだ。

感想

今まで出てきた人物やエピソードが紐づいてきた。簡単にすみそうなのは犬飼たちなので、先にそこから触れよう。犬飼も菅原も、壬生に恨みがあり、菅原の後輩・綾部を通じて結託することとなった。今回、これが出てきているので、数馬と千歌もそこに巻き込まれて行くのだろうか?とくに数馬の方は、壬生が見定めている最中というのもあって、なんだか巻き込まれそうな香りがすごい。ただ、前回もあったような「前科のない人間に任せたいこと」とは、一体なんだろう。

次に烏丸だ。彼は第1審から登場しているが、どうして九条のところにいるのか、というところは「九条先生、おもしろいから」というほか語られていない。元々は有名弁護士法人に所属していたというし、それでいて九条のところにうつってきている。それが、反社のお使いのようになっては、一緒にいられないという理屈は、まぁわからないでもない。「保身のためなら証言をひっくり返す人間」を烏丸は反社の人々をあらわす言葉として使う。これは私的な人間関係の間でも深刻な問題であるし、弁護士としてはなおのことだ。じっさい、九条は「かたらない(カンモク)」というやり方で彼らを釈放にみちびいているので、証言という言い方があてはまるのかはわからない。ただ、人間関係を構築していくにあたって、言をひっくり返すことは相手の信頼を踏み躙ることになる。それを烏丸は危惧しているし、誠実に事にあたっていかない者を対象とすべきではない、という職業倫理を案に示している。一方で、九条がどういったスタンスかといえば、これまで「貴賤を問わない」「道徳と倫理は分けて考えている」と提示されていたものの、烏丸の突いたポイントについては記されていないように思う。

次に京極だ。自身の鳩として九条を使いたいという願望を持つ彼は、外堀を埋めるようにこれまでの弁護を頼んできた。そして、今回組長である伏見が(名前だけ)登場する。ホテルでのやりとりからして、断りづらいような雰囲気を醸し出している。そもそもの九条のスタンスは「道徳と倫理を分ける」「依頼人の貴賤を問わない」というところなので、このまま受けても差し支えない展開のように思えるが、さすがにここで何かブレーキがかかっているのだろうか。会食や部屋の貸与など、あきらかに案件と関係のないぶぶんは断ってきた九条だが、そこにこめられたものは一体なんなのだろう。そもそも、ホテルという密室の2者間のやりとりを切り取っているので、もしかすると描写されなかったぶぶんで承諾している可能性もなくはないのだが、まぁ、そこらへんは後から読んでもわかるだろう。

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