◆すりぬける日

年があけてからしごとが増えた。以前から興味をもっていた内容なので臨戦態勢はとれている。吸収することが多くたいへん刺激的だった反面、ひどくつかれてしまった。

その夜さっそく、睡眠薬を飲み忘れた。そうとう疲れているとき、意図せず脳が覚醒してしまうことがある。おとといはまさにそれで、好き放題しゃべってねむった。日付はおそらく変わっていたと思う。朝はとうぜんけだるい。何時にねむっても一度5時台には目が覚める。「重い……」黙って二度寝をこころみた。

最終的に起き上がったのは8時半ごろで、だいぶ遅い。出るしたくをするも、たどたどしい。時間がかかる。しかしどういうわけなのか、こういうときは時間に間に合う。ふだんは意識しておきながら遅れてしまうので、つかれきったときの無意識が勝るのはふしぎだ。

安心したのもつかの間、つかれが猛威をふるうのはここからだった。乗るはずの電車をみて「これに乗っても間に合わない」と思いこみ、発車を見送ってしまったのだ。電車の時間を調べているにもかかわらず、である。扉が閉まり、ゆっくりと走り出すのを見て正気にかえった。こんなことははじめてだった。

しかたなく時間をつぶし、ホームにもどる。きほんてきに端の車両に乗るので、電車のあたまがよくみえる。中央線のあたまには角のような突起がついている。一瞬、それが人を突き刺して、あたまが血まみれになっているイメージがみえた。赤黒い血が中央線のあたまを濡らしている。まだしっかりと乾いておらず、線路に垂れおちる。ベルの音で目をさました。中央線の頭は銀とオレンジと角だけで、赤はどこにもない。誰のことも突き刺していない。

出先でお手洗いに座りほっとしたのもつかの間、扉がいきおいよく開いた。鍵のしめ忘れ以外に原因はない。開けたひとはびっくりしていたし、わたしもびっくりした。「すみません!」と、お手洗いに見合わないボリュームで声が重なった。鍵をしめ忘れるのはひさしぶりだった。どきどき鳴る心音が本来の用事を忘れさせてしまう。深呼吸をして個室を出た。まったくすっきりしていない。いったい何をしにきたのだったか。

そのあとは、そういう日なのだと割り切って1日を過ごした。帰りがけにいつも大行列のできている菓子屋が空いていたので、またとない機会だと思って買った。噛み締めたとたん、カスタードクリームがいきおいよくマフラーにおちた。毛。おろしたて。バーガンディにアイボリー。用事が済んでも今日という日はまだ終わっていないのだ。もともと外食するつもりだったが、帰ることにした。早く寝よう。忌まわしい今日を、さっさと終わらせてしまおう……。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。そのあとは事故なく、9時半に寝ました。でも、だるいです。

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