◆もうひとつの軸①

むかしから、かっこよくなりたかった。物心ついて間もないころのあこがれはキュートな変身ヒロインではなく、ヒーロー戦隊だった。圧倒的な力をもって敵を爆破させる合体ロボットのコックピットに乗ってみたい、そんなことを思いながら日曜の朝を過ごしていた。

あっという間に小学生。小さなからだに背負ったランドセルは赤く、わたしは大いに不服だった。5歳ごろから「ランドセルは黒だ」と心にきめていた。はじめて出会ったなめらかな革、その硬さ、それも純黒の……!しぶさにしびれていた。かっこいい。母から「ランドセルはどうする?」と聞かれて黒をねだると、即座にしぶい顔をして「女の子は赤でしょう」と言われた。

りくつがなっていない、と幼いながらに思った。女の子が赤に限らないというのは、戦隊ヒーローたちを見て知っている。ピンク以外にも黄色や白のヒロインはいる。中でも白は赤を差し置いて、戦隊もののリーダーをしていた。わたしの初恋であり、あこがれの鶴姫こと「ニンジャホワイト」である。

なんにしても、園児の主張はちからを持たず、むなしい。潰えた希望。純朴な願い。ほしくもない赤を与えられ、学校に通うこととなった。黒いランドセルのオトコノコたちがうらやましくてたまらなかった。1年後、あたらしい1年生が入学間もなくランドセルを壊し、大きなリュックで通っているのを見た。こうすればよかったのかと後から学んだ。

時は流れて中学生、制服をえらぶ機会がやってくる。わたしは反抗期だった。ずぼんをねだると、母は小学生のころとは態度をかえて「いいわよ。でもスカートも買っておきましょうね。気が変わるかもしれないから。」と了承してくれた。そのことがなんだかおもしろくなかったわたしは、結局スカートで3年通った。悪くはなかったけれど、不全感はつのった。スカートも、こうしている自分も、かっこよくない。かっこよさへの情熱はすべてゲームに傾いた。当時、中学生にして相当うまいところまでのぼりつめた。

さらに進んで高校生。ゲームセンターでの補導をさけるため、私服の学校を選んだ。この頃から大学のおしまい頃まではいろいろあって、アイデンティティが拡散・分裂し、ぐちゃぐちゃになったので、行動も服装も迷走していた。好きでもないフェミニンな服、民族衣装をモティフにした服、変な形の服、いろいろだった。本来あこがれていたはずの「かっこいい」服たちは、衣紋掛けにぶら下がったまま静かに過ごしていた。

今日も読んでくださり、ありがとうございます。もうちょっとだけ続くんじゃ。

コメント

  1. […] きのうの続き。どうあがいても1回で終わる内容ではなかった。 […]

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