前に読んだのは10年近く前かもしれない。『宇宙の春』を読んで、また読みたいな〜と思ったが本がなく、また買ってしまった。ちなみに更新しているのは6月だが5月に読んだ本である。
表題作の「紙の動物園」をはじめ、どれも名作揃い。色褪せない。『結縄』『心智五行』『文字占い師』は最初読んだときにも気に入った記憶があり、今回も「いいな」と感じた。どれもざっくりいうと、異なる文化(言い方を選ばなければ、前ふたつは最新技術をもった人々と古来の生き方を続ける人々、『文字占い師』はアメリカに住んでいた少女が中国に転居し、そこで台湾人の老人と出会う)の交流を描いているが、物語の着地は全く異なっている。そこに描かれることばに人間的なあたたかみがこもっているのが、ケン・リュウ作品のだいすきなところだ。それが具体的に何なのかはちょっと言語化できいないのだが、沁み入る良さがある。そして3作品すべてに別れが伴う。その切なさに至る過程も非常に丁寧に書かれ、残された方の変化や成長も感じられるのが「人間らしさ」をかもしだしているな、と感じる。
『文字占い師』は中国と台湾との歴史的な事情を扱っており、読後感は作品の中でもだいぶ重たい。べつの短編集『宇宙の春』にも第二次大戦をベースとした『マクスウェルの悪魔』があったが、こちらも同じく好みだった。歴史ベースの話は陣営による思想の違いもくっきり描写されており、それぞれやむない部分についても汲み取ることができるように描かれており、こういった文章で人の心を動かすことができる人はすばらしいと思うし、そういったものに出会えること自体も、普段の読書体験で毎回得られるわけではないのでとてもうれしい。
本の感想を書くのにあたり、あまり物語のネタバレをしたくないので、あれこれと書けないのだが、人間の可能性をわずかに感じ取れる作品がたくさんあった。また記憶がうすまったときに手に取りたい。
読んでくださり、ありがとうございます。もう一冊ハヤカワSFから出ている短編集があるのでそれも買い直そうと思っています。
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