『月の光-現代中国SFアンソロジー-』(ケン・リュウ編纂)

2月の誕生日にまとめて購入した本たちもこれでラスト。なんとなくそのとき読みたい本を選んで読み進めていったが、最後にこの本を選んでよかった。理由としては、その直前に読んでいた『無限病院』(韓松)の短編が収録されていたことが大きいのと、6月にはハヤカワ書房から、『三体』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』に並ぶSFとして『マイボディ・オン・ザ・ムーン』が出るため、万が一読みさしになってしまっても切りどころを作りやすいからである。

現代中国SFの珠玉がギュッと詰まった1冊。SF作品の解説欄を読むのがすきなのだが、それぞれのおはなしの前にケン・リュウが十分すぎるほど書いてくれていて、物語に入っていく準備がしやすい。どれもおもしろかったのだが、とくに気に入ったものをかんたんに書き残す。

『晋陽の雪』張冉

頭ひとつ抜けておもしろかった。歴史を知っているともっと楽しめるのだろうなと、三国志をちょっと調べたり読んだりしはじめていて、めちゃくちゃおもしろい。読み終わると、結局これは1200年台の話なのでぜんぜん三国時代ではなかったのだけれど、その時代からチャットのような娯楽があってそれでずっと発言し続けるからちょっと嫌われている人なんかが出てきて現代人もクスッとなるシーンが多く、歴史小説のテイストは薄めかなと思った。

『潜水艇』『サリンジャーと朝鮮人』韓松

たまたま読んでいた『無限病院』の著者である韓松の短編。短編の方がエッセンスが凝縮されるので作品の難解さがます気がした。潜水艦の話、ふしぎさと薄気味悪さの同居のバランスがどうもなにかを暗示している気がして(中国に詳しい方はよみとれるのかもしれない)、ずっと不穏で非現実のような現実なんだよなという感じがよかったな。SF、読めば読むほど周辺領域の理解があるとより深く楽しめるなーと、自分の浅学に自覚的になり、学びたくなる。サリンジャーの方もifの世界線と思想とが通底していて構造がすき。

(※ここで吉川三国志に寄り道したので、実時間として2ヶ月たっている。つまり、前文にある読書計画はまったくもって予定通りいっていないのである)

『金色昔日』宝樹

『三体』のスピンオフが有名な作家。作品は初めて読んだのだが、構成や展開が読ませる読ませる、すばらしい作品だった。「おもしろい!」だとさきほどあげた『晋陽の雪』だが、「このみ」でいうとこちらが僅差であった。一定の人物同士がいろいろあって切なく別離していく感じの話はSFにかぎらずすきになりやすく、その独白の様相も苦悶きわまりなくため息でいっぱいになった。

『月の光』劉慈欣

表題作だけあり、劉慈欣なので当然完成度は高い。ハヤカワSF文庫の2段組で20ページくらいなのだが、その短さでも世界観にグッと引き込まれるので本当にすごい。劉慈欣の短編はどれもそうなのだが、読んでいくなかで光景をイメージしたときに画が出てきやすい感じがあって好きだ。案外短編をアニメやドラマにしてもおもしろいんじゃないかなと思っている。

『鏡』顧適

設定がとても面白い作品だった。時間の順と逆がじりじり近づいていくなかで真実にせまった瞬間の気持ちよさが大きい。

『ブレインボックス』王侃瑜

終盤の作品の中だとだいぶ好き。救いと絶望は背中合わせだ。

さいごに中国SFの足跡を追ったエッセイなどもついており、ジャンル全体を概観できるようになっており非常に親切な1冊だった。中国SFの入り口にいい作品だと思う。そこで気にいった著者の本を追ってもいいのかな。ただ、劉慈欣も韓松も長編になると複雑さがぐっとあがる感じがあるので、イコール気にいるかというとそうでもないかもしれない。

読んでくださり、ありがとうございます。アジアSFずっと浸っていられるなぁ、なんなんだろう。安心感があります。

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