◆『九条の大罪』第28審「消費の産物❶」

今週から新章である。一旦、壬生と京極のことはおいておく、ということのようだ。しかし、ここ2エピソードほど導入にすぎないような長さであり、のちのちのエピソードで合流し、物語が展開していく可能性もみられる。

今週のお話

サンリオ的なものやゲームのフィギュアやぬいぐるみ、サブカルチャー由来のアートやキャラクター、その中にコスメやチャンネル、ペットボトルなどが混沌と置かれた部屋の風景がある。ベッドの上にコンビニ弁当、プロセスチーズ、納豆など、既製品のオンパレードだ。スマホを見ながら食事をする若い女性の姿がある。女性の腕にはリストカット痕がおびただしい数あり、二の腕や脛にはややサブカルチックな熊とうさぎ、いちご、薔薇の花のタトゥーが彫られている。
そして洗面台には血まみれの包丁。周りにはヘアスプレーやコーム、ソープ類が所狭しと並んでいる。そして女性の座る目線の先には男性が背中を何箇所も刺されて大量出血している。血痕を見るに、立位のところを何度も刺し、倒れてもなお刺しまくったように思える。この生と死や、生活と嗜好のまとまらなさは、女性の精神状態を映す鏡であることは語るまでもないだろう。そして、ベッドサイドには可愛らしい女性の写真がスタンドに入れて飾ってある。どういったものなのかはよくわからない。にしても、スタンドの前にも特撮的なフィギュアやトイストーリーのキャラクターフィギュア、星のカービィなどが敷き詰められている。

場面は席巻室にうつり、どうやら殺人の容疑で勾留?逮捕?されたようだ。両の太腿にも、二の腕に彫ったのと同じ熊とうさぎがいる。女性いわく、殺した相手は自分の生き方を変えてくれた人であり、自分に価値があると教えてくれた人だという。しかし、自分には商品としての価値しかなかったとわかった、と語る。九条が、なぜ殺したのかと問うと、女性は「自分を取り戻すために殺しました」と悪びれた様子などなく言う。今回、烏丸はいないようである。女性は、ここから九条に、少し長くなるが話を聞いてほしいと、過去のエピソードを語り始める。

新宿、歌舞伎町の広場らしきところに、金髪の女性が2人歩いている。話の内容から、パパ活をして大量の収入はあるものの、同じくらい散財もしているようだ。2人の会話を聞きながら、女性は鬱屈とした表情をしている。別の場面に移り、少女ふたりが路上で駄菓子をつまみながら、自分の推し(ホストだろうか?芸能人だろうか?)の話がはじまる。そこから少し離れたところに、女性は座っている。男性が缶チューハイを差し入れ、「ほら貧乏人。お前らに酒奢ってやる。」と、その返礼に性的なサービスを要求する。それに対し「無理。しね。ブス」など悪態をつく。女性は、そのようすをじっと見ている。この時点では、刺青はないようだ。

女性は「帰る」と立ち上がる。少女ふたりは「てか、しずんいたの?」「置き物かと思ったわー。」と返す。さらに男性が「お前ら冷めた。笠置雫。地元の同級生だろ?」「地雷でウザイ。」と、怪我もないのに包帯を巻いたかまってちゃんは、メンヘラホイホイ(メンヘラの女性を好む男性)に行けと言われる。それを聞いて、雫は傷ついているようすをみせる。

新j区駅の地下道で、雫はムーちゃんに電話をかける。ムーちゃんは雫よりもだいぶ年上にみえるが、年齢相応の服装ではなく、10代後半のキュートな服装のまま大人になってしまったような人物である。また、序盤で雫が入れていた刺青の熊とうさぎ、それと何らかの文字列を入れているようにみえる。「まだ仕事中」だというが、なんの仕事をしているのかは不明瞭であり、誘っておきながらごめん、とあまり悪びれずに謝っている。ムーちゃんは間髪入れず、「暇なら出会い系アプリでイケメン呼んで遊んだら?」と話す。雫はマッチングアプリを開くが、Likeをつけた人間はどれもイケメンからはかけ離れている。しかし、そのうちの1人にイケメンとおぼしき人を見つけ、アプローチをかける。とはいえ、怖い人が来たときのことを考え、遠くから確認しようとする。案外無防備で無知すぎる、というわけでもないようである。そして、そこに現れたのは正真正銘写真通りの人物であり、身だしなみも整っている。雫がおどろき、たじろいでいると、男性の方から「可愛い服だね!似合ってる。」と声をかけるのであった……。

感想

なんか、ウシジマくんを思わせるエピソードだった。今も連載していれば、きっとマッチングアプリを扱う機会もあったろう。

さて、今回のエピソードの中心は笠置雫である。笠置は京都の地名であるが、立地としてはほとんど奈良県である。となると、どうも中心に立ってマウンティングできるほどのキャラクターではない、と予測できるが、今回の話を読むと、やはりそのようである。「地元の同級生」ということばからもわかるように、おそらく埼玉的なところや、東京都下、ないしは23区北側などの出身なのではないだろうか。

そして今回の副題「消費の産物」も現代をおもわせるタイトルだ。雫をみるとわかるように、彼女はおびただしいカテゴリ・量のグッズで構成されている。統制がとれているようで混沌とした部屋の状況というのは、きわめて不安定な精神状態や、自身のアイデンティティが脆弱であることの表れである……というのは、ウシジマくんの頃から追っている読者にとっては自明の事態だろう。また、過去のエピソードから、今回の男性と出会ったあとで自身の身体に刺青を施している。また、その刺青の絵柄が電話相手であるムーちゃんのものと似ていることも気がかりである。

ただ、今回のエピソードは物的な消費というよりは、むしろ人的消費、雫のいうところの「私には価値がある」「でも」「商品としての価値しかなかった」というぶぶんがヒントになってくるように思う。自身の価値をはかるにあたって、必要なのは自信、それがない場合は比較する他者ないしは評価してくれる他者の存在である。雫のような人間の場合、絶対的な自信をもって自分の価値を認めるということは、歌舞伎町での様子から、そもそもは歌舞伎町をあてどなく彷徨わなければいけない立場にあることから、難しそうである。また、他者と比較して自身の価値を見出すことも、そこでの疎まれようから困難さがみられる。そのため、他者からの価値の付与を求め、そうしてくれた男を愛する(最終的には惨劇になってしまうが)という、消極的に残った選択肢を選び取る他ないのである。
いずれにせよ「絶対的な価値」というのは、価値を担保できるだけの絶対的な自信を介することでのみ存在し、そうでない価値は常に相対的かつ流動的なものとなる。
最終的に雫は、自分に価値を見出してくれた男を殺害するのだが、その動機が「自分を取り戻すため」というのも興味深いポイントである。彼女は他者に委ねた自身の価値を目の当たりにした上でそれを破棄し、なにもないまっさらな状態に戻さんとするために罪を背負うのである。しかしながら、倫理的観点からして、自身の価値を正当に(ここでの正当は、雫の想定するような、という意)認められたいという欲求から殺人に走ることは、何よりも自身の価値を貶めるものに他ならないように思う。ただ、こういった倫理的価値観から脱却して落とし所をさぐるのが九条であり、どういった着地に持っていくのかという点については終結までを見守りたいところだ。

そして、今回のところでもう一点気になるのが、雫に九条を紹介したのは誰かということだ。これまでの流れだとアウトローな存在が多かったために壬生が中継することが多かったが、雫は今のところ、アウトローと縁のない少女である。まだ今回のところでは明らかになっていないが、九条につながるまでの道筋もきちんと追っておきたいところである。

深い考察は他の方に任せ、来週も楽しみにしよう。

コメント

  1. […] 己評価の渦から脱却できない。この渦に手を差し伸べた(ように見える)のが修斗なのだが、❶でしずくから語られるように「商品としての価値しかなかった」とわかり、結果として彼女 […]

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