◆感想『九条の大罪』第65審「至高の検事」1

今週のお話

新エピソード突入、今回はあわただしく、4セクションある。

どこかの弁護士事務所で、烏丸がむすっと考え込んでいる。すかさず流木が、冴えない顔をしているねと、読者の思いを代弁したような声をかけると、いつもそうだというようなことを返す。たしかに、そういう顔のシーンは多かったかもしれない。先日、山城に会ったことを打ち明け、そこから、九条が壬生→詐欺師への恐喝疑いの件の共犯として問われる可能性を投げかけられたという。ここには二つの問題があって、ひとつは刑事事件の問題、そして可能性は低いものの、被害者とされる詐欺師が懲戒請求をした場合、最悪、弁護士として除籍されてしまう問題を挙げる。それを聞いた流木は、気の毒そうに受け止めたうえで、「九条弁護士は善か悪か?」と問いかける。それに対して烏丸は「それを見極めるために流木先生の所に来たのかもしれません。」と答え、至高の検事がいたら苦情はパクられる、すなわち捕まってしまうのではないかと言うのだった。

場面はどこかの豪邸から、証拠品だろうか?を押収するスーツの男たちが描かれる。そこには九条の兄、鞍馬もいる。オフィスに戻ると、鞍馬が上司の宇治を労っている。一方の宇治は謙虚に受け止め、却って、鞍馬に期待しているという。検事といえど、今は失敗や損をしたがらない、自己保身のサラリーマンのような輩が増えてきているが、検事は正義に身を捧げないとダメだと語る。その点、鞍馬は違うと、期待しているのだという。鞍馬は、小野という検事の退職の店を予約したことを報告する。どうやら小野は、ヤメ検(元検事の弁護士のこと)になるというが、鞍馬ははっきりと弁護士は嫌いだという。特に悪人を弁護する輩は、といかにも九条を意識したようなセリフを吐くのだった。

次の場面は繁華街のクラブにうつる。第1審で飲酒運転からの死亡事故を起こした森田が、自分の女に手を出したと言いがかりをつけられているが、壬生の名前を出し、このクラブのオーナーだといい、撒いている。気をよくした森田は、アッパー系の薬物を摂取し、引き続き楽しんだ末、入り口の前で眠りこけていた森田は、警察に連行される。聴取の担当はもちろん嵐山だ。尿検査で薬物反応も陽性、看板を蹴り壊した映像も残っている。さらに、押収したスマホが妙に古いことに気がついた嵐山は、第1審で森田がスマホを失くしたという供述を引き、失くしたことは嘘だろうと詰め寄る。たじろいで言い訳をする姿をみた嵐山は、森田の考えではなく、誰かの助言でそうしたのではないかと真意に迫る。九条の名前を挙げ、森田の量刑をにぎると好条件を提示し、全てを話すよう伝えるのだった。

最後は九条が愛犬・ブラックサンダーとランニングに行くところのようだが、壬生が呼び止めているようだ。「馬鹿な後輩」がパクられたと、口数少なに依頼をかけるのだった。

感想

タイトルからして、兄である鞍馬にスポットがあたるか。詐欺師の件といい森田がでてきたこといい、これまでのエピソードを踏襲して展開していくのでシリーズの旅におもしろい。

烏丸は、九条のありかたに、悩んでいるようだ。烏丸は当初、九条のそういったところを「面白い」と思い、イソ弁を依頼していた。それはどこから揺らいだのか。それが京極との出会い及び、伏見の案件を引き受けるようになってからである。そうでなくても、数々のグレーな人々とのやりとりや案件の進捗をみて、保身のために他者を売るような出来事を見出してきたようすだ。最終的に、九条の身を案じる形で離れた烏丸だが、彼自身、正義のありかたや九条のしごとの姿勢については逡巡しているようすがうかがえる。そうであるからこそ、師である流木の事務所の扉をたたいたのだろう。流木は教え子の九条を案ずる様子であるが、彼の姿勢に対して共感はしないまでも理解は示しているのかなーといった返答である。何にせよ、ここでの烏丸と流木は傍観者で、読者とおなじ立場にある。そういえば、流木が電話で話していた「九条に頼みたい仕事」ってなんだったんだろう。

次は鞍馬と宇治だ。検事をやめて弁護士になる同僚なのか先輩なのか後輩なのかわからないが、それにたいしても毅然と「弁護士は嫌いです。」と口にすることから、だいぶはっきりとした性格のようだ。ここでは検事としての鞍馬の正義観が描かれることと思うが、それに対する九条の正義とのぶつかりあいがぜひ見たいところだ。父の命日のやりとりで九条が鞍馬に放った「あなたには見えていなくて、私に見えているものがある。」というところが、今回のエピソードにも見出せそうである。

そして森田。彼はよくもわるくも変わらないというか、成長がみられない。嵐山に詰められているが、ここで壬生や九条を守るような行動に出られる器ではないことは、なんとなく予想している。今回のところで嵐山も関わってくるとなると、検事である鞍馬とタッグになったときの逃げ道がない。壬生が何かしら動きをとっていてくれると、ちょっと光も見出せそうな気がする。菅原との結託交渉もあったし、そのあたりもどうなっているのだろう。絡んでくるのかもしれない。

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