◆感想『九条の大罪』第71審「至高の検事」⑦

今週のお話

先週は烏丸と九条の話だが、今週は犬飼たちと京極の息子・猛のシーンだ。彼らの話を猛は聞いており、バラバラにして山に埋めよう、という話になっていたのだった。いざバラバラにしようとチェーンソーを起動したところで、猛は命乞いをする。自分を殺すことで面倒なことになる、今なら許すし金も払うと、窮地に陥っていてもやや上から目線な感じだ。犬飼は、恨みなどなく、父の威光で悪さをした報いだと言い放つ。

そこで仲間の1人が、犬飼を咎める。数百万で「また」殺人で捕まるのは割に合わないと、嵐山の娘を殺したときのことを思い起こさせる。しかも、本当に京極の息子ならまずいだろうと。そこに、犬飼は「お前はコイツの弁護人か?」と、自分が猛ならどうするか、話し始める。犯人探しをして、仕返しをするだろうと。それにしても、殺せば警察や伏見組に追われると、仲間は返す。今なら引き返せると、少し、びびっているのかもしれない。それに対し犬飼は「バレたならな。」とどこか余裕をみせ、猛の件を、死刑判決がかかった刑事裁判だと、裁判官役をして、猛に最終陳述をもとめる。自分がやられたことを思い返しているのだろうか。

猛は、威張りたかったわけではないとか、本当は医者になりたかったが、ヤクザの息子はヤクザの子で、舐められたらおしまいで、なりたくてなったわけではない、犬飼たちもそうだろう、話せば分かり合える、人の恩は絶対に忘れないと、同情を買おうとする。じっさい、犬飼は「身の上話聞くと、やりづれーな。」と苦い表情をする。しかし、そこでもう1人の仲間が「コイツだけは死んでいい人間だ。」と反論する。小学生の頃から自分より弱い人間を虐めていた卑怯者で、犬の糞を食べさせたり、汚物を混ぜた給食を食べさせて笑い物にしていたという。高校の頃は組織だって恐喝や強姦をしたり、強姦した中高生を恐喝して売春や美人局の強要をしていたという。被害者も加害者も伏見組の威光を恐れ、逆らうことができなかったのだと。猛のようなガン細胞がみんなを不幸にしており、死んだら喜ぶ人間は大勢いると、猛を足蹴にする。

犬飼は仲間に、恨みがあるのかと尋ねる。そこで、元カノが強姦され、海外サイトに動画を売られた話がでてくる。そもそも犬飼たちが猛を拉致したのは、そのような被害を受けた男からだった。仲間も実は、被害者の1人だったのだ。怒りに震えながら、仲間はそのときのことを語りだす。苦しみの中、学校も辞めずに被害届を警察に出しに行く予定だった日、朝のラッシュで何者かにホームで押され、轢死したという。猛は知らないとうそぶくが、手下の人間だろうと仲間は返し、猛の死刑動画をダークwebで晒さないと彼女は報われないと、怒りにまかせチェーンソーを猛の首筋にあてるのであった。犬飼は激昂する仲間を止め、山で生き埋めにすることに決める。

夜になり、山にきた一行。「なんでもします!!」と命乞いする猛を埋めていく。死の恐怖からか、猛の全身は震え、失禁している。「あの世で彼女に土下座しろ。」と、仲間は静かにこぼすのだった。

場面は九条の事務所にうつる。伏見組が警察にマークされているので、京極の個人資産を息子の名義にできるかという相談を、どうやら持ちかけていたようだ。やり方を間違えると息子とセットで捕まるので無理だと、九条は返すが、どこか話半分というか、そんな様子を察したのか、京極に声をかける。京極は「嫌な予感がする。」「俺の勘は大体当たる。」と、今起きている不穏を嗅ぎつけるようにつぶやくのであった。

感想

さて、順当にまずい。犬飼の、裁判を模したシーンは、犬飼陣営それぞれの立場の違いがわかりやすく、おもしろいシーンだった。実際、刈り上げている男の方は嵐山の娘の件で刑務所へのお務め歴があるようだし、戻れるなら今といった感じで、彼女を強姦された方は犬飼に殺人を依頼した主と立場を同じくしている。なんだかこの2人と、犬飼とのやりとりは、弁護士と検事を思わせる。そして犬飼は裁判官と、裁判において決定をくだす立ち位置、それはすなわち最強になるのだが……にいる。これは、自身が判決を下された経験に基づいての、力の示し方なのか、どうなのかはちょっと、わからないが、なんとなく犬飼のことなので、意識しているんじゃないかな。

この疑似裁判の過程で、猛の、真か偽かもわからない陳述にちょっと応えてしまうのが、犬飼が、根っこからの悪でもなく、揺らぎのある、人間味を感じさせた。また猛の方も、裁判のモードには入っていないものの、なんとなく問われた流れをくんで命乞いをするというのが、既に相手のフィールドに入っているのがわかるシーンだった。彼については描写がとぼしいのだが、まぁ解放すれば、反撃にくるよね、というのは、犬飼の説明する通りかな、と思われる。

一方で、そういった人間味というものは、あまり裁判官に求められるところのものではなく、チグハグとしている。そこに恨みをもった仲間が陳述をして、殺そうとするのを制止して、結局その流れで埋めることにするわけだが……。埋めるときの、ビールやお酒の描写がよくわからなかったのだが、これはどういうことなんだろう?しらふのテンションでは人を殺せないので、飲んで上げておくという感じだろうか、それとも、埋めたあとに使うのか……。京極を埋めるのに、犬飼以外のふたりが実行しているのも気にしておいたほうがいいのかな。結局、教唆で罪にはなるから、あまり気にしなくてもいいのだろうか。

このあと、今回のことが明るみになり、嵐山たちが捜査に乗り出し、ほんとうの裁判になって、そこで検事が出てくる、という感じの流れになるのだろうか。そうなると検事は蔵人として、弁護士は誰になるのだろう。九条がでてくると、京極(父)と利害がぶつかってしまうから、烏丸あたりが、流木と引き受ける感じなのだろうか。烏丸は弁護士としての生き方が自身の人生や価値観に接続されているが、九条は人生が接続されていながら、道徳や価値観等々はこれまで何度もでてきたように、切り離して臨んでいる。そのあたりの違いがさらに浮き彫りになるエピソードになるのかな。何にしても、ここの疑似裁判を通して、猛にかんするほんものの裁判というのが、対照的にうつるように描写されることが予想されるので、引き続き来週も楽しみに待とう。

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