◆『九条の大罪』第26審「強者の道理❶」

先週のものの感想である。先週いろいろあって、ちょっと忘れていた。「自殺の心境」が続くかと思いきや新章である。前のエピソードを踏襲したかたちで続くのかどうかは定かでないが、ひとまずざっとみていこう。

今回のあらすじ

京極(25審で初登場したヤクザで、壬生より上の立場らしいことが描かれている)が銀座の道路にいるスズメバチを踏み潰す。「危険な虫は殺す。」と京極。高級ブランドのショッパーを携え先へ進もうとすると、後ろから見知らぬ男がショッパーを奪おうとする。そこに、ボディガードとおぼしき強面の男2人が彼を抑え、免許証の写真を撮り、その場に放置するのであった。

被害者のはずなのに逮捕された京極は、なぜ自分が逮捕したのかを九条に問う。九条は、強盗の男・佐久間謙一が傷害で被害届を出したという。ボディガードが佐久間に怪我をさせたので、その上位者である京極が共謀共同正犯(*1)になる、という。京極は現役のヤクザなので、警察にしてみれば逮捕するよい口実になると九条は付け加える。京極は早く示談をして勾留期間(*2)を縮めたいそうだが、佐久間が応じないと聞いて、「ヤクザも舐められたもんだな。」と京極は怪訝そうな表情である。だが、九条は防犯カメラの映像からボディガードの行動は正当防衛であり、起訴されることはないだろうと話す。

それに対して京極は、チンピラを20日で釈放したエピソード(参考:「弱者の一分」編)を持ち出し、早く終わらせるために電話を借りたいと話す。烏丸はすかさず、それが弁護士規定に反することを伝えるが、京極は間髪入れずに壬生への伝言を頼む。弁護士など所詮鳩(*3)だろうと試すような口ぶりである。それに対し九条は、伝言役は他の弁護士に頼むよう促す。金と力があっても、法律の前で京極は弱者であると。

ところかわって、どこかの雑居ビルの屋上?だろうか。壬生と佐久間が対峙している。見るからに、壬生の方に分がありそうだ。壬生は「俺を知ってるか?」と問い「もちろんです。」と佐久間。そして、佐久間に被害届を取り下げるよう命じる。

場面は九条と烏丸に戻り、烏丸が京極の危険さを察知し、弁護士バッジが飛ぶどころか、いずれ生死に関わると九条の身を案じる。その眼前には鳩の群れが街を飛び去り、そのうちの一羽だろうか、がアスファルトに横たわっている。

佐久間が被害届を取り下げたことにより、京極は自由の身となる。そして京極は「面白い男じゃねーか。」と、九条に目をつけたのであった……。

(*1)2人以上の者が犯罪を企て、そのうちの一部の者が現実に実行した場合、実行に携わらなかった者も教唆犯や従犯としてではなく、共同正犯(主犯)として扱われること。
(*2)逮捕の後に検察官によって勾留の請求がされたあと、裁判官の決定によって必要と認められた場合に起こる。勾留期間は一般に10日で、その間は拘置所や警察の留置施設に身柄を拘束され,取調べが行われる。勾留中に起訴された場合,勾留は起訴後も継続するのが一般的らしい。起訴後の勾留期間は原則として2ヵ月だが、必要に応じて延長される場合もある。
(*3)身体拘束をされている者と他の者が互いに秘密の連絡をとること。この、伝書鳩のような役割をする弁護士を「ハト弁」と呼ぶことがある。実際に弁護人となる意思もないのにこのような行為をすることは、違法となる。

感想

さてさて、植田は見る影もなく、ヤクザ陣営VS九条・烏丸といった構図になった。植田については幕間のような扱いで、深くは描かれないのかな?

京極は滑皮っぽくもハブっぽくもない、またあたらしいタイプのヤクザだ。当てずっぽうに話しているようにみえて、電話の貸与→直接の伝言と依頼のレベルを下げてきている。それでも九条は頑として応じないので、なかなかの緊張感が漂っている。面会中のやりとりは単なる会話というよりも、お互いの身の上を賭けたかけひきとなっており、ここが今回大きくフォーカスするシーンなのではないかな。
ここでも九条は、道徳や貴賤を度外視するいつものスタンスで京極と対峙する。また、京極の伝言に応じないことから、九条は仮に京極が起訴されたとしても、弁護を引き受けないという姿勢をしめしている、とわたしは読み取った。やりとりの終わりになされる「金と力があっても、法律の前であなたは弱者だ。」というせりふは、まさに今回の副題「強者の道理」と対をなすテーゼである。ここに京極は引っかかりを覚えているのではないかと思う。パーテーション越し、かつ極めて制限されたやりとりの場面からエピソードが始まるのは、強者たる京極にとってきわめて不本意な立ち位置からのスタートである。そこから「生死に関わる」ほどの事態にまで発展がすでに予見されているのだから、いかに京極という男が恐ろしい存在であるかが伝わってくる。

また、序盤のスズメバチと鳩はそれぞれ京極のせりふである「危険な虫は殺す。」「弁護士なんて所詮鳩だろ?」そして最後の「面白い男」からして、どちらも九条を暗示し、今後の展開につながっていくものだろう。スズメバチを踏んだ靴のデザインも攻撃性に満ちており、九条へのやりとりの態度も上からのものだ。『闇金ウシジマくん』には「ヤクザはメンツのいきものだ」といったせりふが何度か登場するが、おそらく京極も例に漏れずそうだろう。そして今回のこの仕打ちからのスタートは、何かが起きる予感だけがふつふつと漂ったまま、今週は休載である。来週を待とう。

読んでくださり、ありがとうございます。これくらい簡潔でもよいかもしれませぬ。

コメント

WP Twitter Auto Publish Powered By : XYZScripts.com