◆感想『九条の大罪』第73審「至高の検事」9

今週のお話

検事サイド

さて、ひさしぶりの検事サイドだ。冒頭で検挙したゼネコンの件は、ネットニュースを始め、メディアに注目されていると労われている。鞍馬は控えめに、宇治部長の指示のおかげだと謙っている。その後、小便器で用を足しながら、同僚の男が鞍馬を誉めそやす。同期で一番優秀でイギリス大使館勤務後、長野の検事正をへて超出世コースなのだと(法知識のない者からすると、あまりピンとこない)。そして、いずれは東京高検検事長になり、次長検事を経て検事総長になってもらうのが我々(部署の?)願いだという。

鞍馬は「用を足しながら言うことか?」とあしらう。男はつづけて、事件の手柄は宇治が持っていくが、筋書きは鞍馬が考えている、世間の関心事の操作も上手だと、少し皮肉めいたことを言う。それに対して鞍馬は「大衆を巻き込まないと検事の正当性を保てないからな。」と言いつつ、「愚民に膝丈合わせていたら国が腐る。」ともいう。そして、鞍馬のテーマともなりそうな「検察を強くして国を正したい。」という言葉がでてくる。そして男に、検察官の出世コースは検察庁ではなく、法務省の本庁勤務だろうと指摘する。捜査も公判もやらずに、法律を作る仕事に従事する連中だと。

薬師前と烏丸

「弱者の」に、九条と亀岡が蟹を食べたところと同じ店で、薬師前と烏丸が蟹を食べている。そこに薬師前は電話をかけて、記者の市田を誘う。競馬で勝ったので奢るのだと、薬師前は息巻いている。烏丸は呑気に「ただ酒はおいしいなぁ。」とひとりごつ。市田は検事の張り込みをしているので、後から合流すると返事をして切る。

電話が切れたあとで、市田が検察官の取材で遅れることを伝え、そこから検察官のイメージを尋ねてみている。蟹を食べると無口になるとはいうが、2人のやりとりは続く。薬師前は怖いイメージがあるというが、一方の烏丸は嫌悪感を抱いていると答える。いわく、検察官は独任制の官庁と呼ばれているというが、薬師前はしっくり来ていないようだ。簡単にいうと、検察官だけが刑事事件の起訴の権限を持っており、検察官が不起訴にしたら無罪で、人の運命を決める権限があるという。

それに対して薬師前は理解がつながったようだ。いわく、ネットなどでは、検察官は捜査権もあるので、都合よくストーリーを作ることができると言われているらしく、世間の関心があるネタで世論を味方につけたら捜査、逮捕の正当性も誘導できるという噂があるようだ。あわせて、マスコミは捜査機関が握っている機密情報のリークに依存して、独自に取材をしなくなってきており、検察にコントロールされやすいということも、聞いているという。だから検察官に対して、怖いイメージを持っているのかなと、自らのイメージの根源について考えていたようだ。烏丸は、検察庁は組織なので、終局処分(事件について必要な捜査を遂げた後で,容疑者を刑事事件で起訴するかどうかを最終的に決める処分)にあたっては上司の決裁(賛否を決めてもらうこと)を受けるので、担当検事の独断で決められるわけではないと伝えるのだった。

記者・市田と鞍馬、そして鞍馬の噂……

そんな市田は、寒空の中鞍馬をマークしている。ビルの電気が消えるのも見逃さない執念で、走り出す。歩道橋を走る市田に、後ろから鞍馬が声をかける。一度目ではないからか、鞍馬は驚かず「また公園で張り付いてたのか?」と尋ねる。市田はびっくりしたようすである。寒くなってきたから風邪を引くぞと、缶コーヒーを差し出す。「相変わらず色気ない格好だな。」と軽口を叩く鞍馬に、「セクハラになりますよ?」と市田。恰好に興味はないといい、市田の記事を評価しているようだ。それに対して、市田も悪い気はしない様子で、それを見た鞍馬は「いいネタ」を提供するという。「欲しいだろ?」「はい、もちろん。」と、お互いの関係は、悪くないようだ。その前にタバコを吸うので待ってほしいと、喫煙所に入る鞍馬。さきほどの「愚民に膝丈合わせていたら国民が腐る。」だろうか、何かこう、考えているようだ。

別の日、同じ課の者たちだろうか、男ふたりが、鞍馬の「弁慶の泣きどころ」の話をしている。それはもちろん、伏見組の顧問をしている(と受け取られている)九条のことである。反社とのつながりが九条にあるとなると、鞍馬もその影響は免れず、最悪地方への左遷や、辞職を強いられるだろうと。正直なところをいえば、九条が世間で話題になる前に逮捕されて、士業から退いてほしいというとzころが本音だろうと、囁くのであった。

九条法律事務所

京極と、その黒服たちが事務所の九条を囲むようにやってくる。壬生と連絡が取れないので、居場所を教えてほしいと京極はせまる。間髪入れず、ゴルフバッグだろうか、に詰められた、死体の足が机の上に無造作に置かれる。その中指は千切れており、痛ましい光景が想像される。京極は九条に凄み、壬生の居場所をもう一度尋ねるのだった。

感想

がっつり検事回かな。鞍馬の思想や価値観がみえるところとなった。

鞍馬としては、検察を強くするために法の力が必要不可欠で、仕組みの根底から変えることができる法務省のほうが、ずっと切望しているところに適う、と思っているのかな。なので、同僚のような男たちがいうような、検察庁のトップには目もくれないというところなのだろうか。また、マスコミや大衆の関心を引く案件を市田に与えつつも、「愚民に膝丈合わせてたら国が腐る。」とも言っているあたり、うまい具合に二枚舌でやっていっている、というのが今の状況だろうか。そういった自身の立ち位置について、どう思っているかまでは書かれていないが、どうやら内部での評価は悪くない、といったところだ。

それを考えると、九条の立場はいっそう際立つ。鞍馬の「弁慶の泣き所」とも称されているわけだが、両者の法に対する姿勢や人間への目線は、だいぶ異なっている。今回のところまでで、鞍馬はシステムとしての法を強固にすることをめざしているわけだが、それがなんのためだ、というところまでは、まだ明示されていない。市田とは冗談をいうなどして、いい感じに会話しているわけだが、それもいいネタありきの話で、壬生と九条のような、屋上でBBQのような、友情のような印象は乏しい。

また、途中で烏丸が検事のシステムを説明してくれたこともありがたかった。その説明を受ければ、まぁ、弁護士は検事があんまりすきじゃあないだろうなというのは、頷ける。法廷ではフラットに立っているものの、起訴できるとなると法的な権限がだいぶ違ってくるなあ。ふつうに読んでいても普段知れないところのことが知識として得られるのも、この作品のいいところだなーと思う。

さて、章タイトルの「至高の検事」だが、今回の検察サイドのやりとりで、同僚たちと鞍馬との想定する「至高」の行き先が異なっていることが今回のことでわかった。おそらく、京極猛の殺人は刑事事件として鞍馬に起訴されることになって、その弁護に九条が……というコテコテの展開なのだろうか。うーん……。まだその直接対決は早いような気もするが、来週がまちどおしい。

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