◆張りのある日々

 『闇金ウシジマくん』の連載が終了し、週刊スピリッツの末尾に「今秋新連載開始予定!」と書かれて全く音沙汰なく早1年半が経過した。 2019年秋、週刊スピリッツの著者欄に「真鍋昌平」の表記がなく、落ち込んだ。
 今年の春、作者原作の、ナンパの何たるかを著した漫画『ピックアップ』が月刊ヤングマガジンに連載開始し、すかさず読み始める。作画の福田博一さんは、真鍋先生のアシスタントである。先生より毒の抜けたツルリとした絵柄はたしかに読みやすく、内容も『闇金ウシジマくん』を彷彿とさせる綿密な取材をへて構成されていた。毎月ヤンマガを購入してストーリーを読むも、やはり何かが足りない。他の出版社で連載を始めたのをみて「もしかするとスピリッツ編集部と何かあり、新連載が行えない状態になってしまったのではないか」とあらぬ懸念を抱いていたこともあった。

 それが今年の秋、きゅうに真鍋先生の公式Twitterで「新連載」の文字がとびこみ、こころが急に温度を上げ、沸き立つのを感じた。新連載への希望を忘れかけていたこのタイミングで連載が始まるとはつゆも思わず、わたしは歓喜した。

 第1話にあわせて1年半ぶりに週刊スピリッツを買った。第一話「片足の値段」、タイトルからして読者を惹きつけてやまない。今作の舞台やネーミングの由来からはじまり、主人公九条をはじめとした、人物の魅力もすでにばっちりだ。そして今回は法律という、お金と並んで情を介さない、ドライで客観的な媒体を介して作品世界が構成される。お金と同じく、法律を操るのも情や欲にまみれた「ヒト」であり、その乖離が既に、後半の「私は法律と道徳は分けて考えている」という台詞にあらわれている。この徹底的な構造を維持したまま、きっと『九条の大罪』は物語を進めていく。これはウシジマくんでいう「奪うか奪われるなら、俺は奪う方を選ぶ!」という第一話の台詞に重なるであろうことを、かの有名なウシジマくん感想・考察を丁寧に行っているブログ「すっぴんマスター」で書かれていたが、まさにその通りだと思う。法律というフィルターを通して現代社会を観察し、そして再構築していく過程を、是非とも見届けたい……。
 先週はその思いでいっぱいで、他のすべてがうまくいかなくても全く気にならなかった。とにかくわたしは幸せだった。また、真鍋作品と歩める日常が戻ってきたのだ。

 文字であらわすとこんなにも陳腐になってしまうことが悲しいが、ともかくこの1年半で枯れていたぶぶんに一気に栄養を注がれたような心地だ。満たされている。毎週の(休載がはさまるのでげんみつには毎週ではないのだが)楽しみがあるというのは、こんなにもすばらしいことだったろうか?

 読んでくださり、ありがとうございます。人生が倍になったような気持ちがします。

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