『円』(著・劉慈欣、訳・大森望ほか)

『三体』で一躍有名になった劉慈欣の短編集。以前読んだ『老神介護』もだが、劉慈欣は短編もおもしろいのだ。しかも、ガチガチの物理系から、歴史を取り扱ったものまで幅広い。

作品としては後者の方が新しいのだが、ストーリーの構成としては世界観もさることながら、登場する個人に焦点をあてたものもみられたのが印象的だった。というのも、劉慈欣の作品は 登場するその人個人というよりは、どこか群像劇的な世界観を表現している傾向が強いように感じていたからである。

たくさんの作品が収録されているが、やはり歴史ベース、地域紛争などの社会問題を扱う中で生きる人々のお話が全体的に好みだった。自分の関心の先が辺境や格差、不遇といったところになるので、どうしてもそういったテーマの作品の記憶が強く残りやすい。

序盤の炭鉱地帯における労働と苦しみの打破をはかる『地火』、中国の辺境の村で教育を強く唱える老人と、一方で繰り広げられる壮大な宇宙戦争との交差する瞬間をダイナミックに描いた『郷村教師』、西アジアにある架空の国シーアとアメリカとの、いわくつきのオリンピックを描く『栄光と夢』、三体の世界観を踏襲し、始皇帝の命により壮大な計算装置をつくり実践せんとする『円』あたりがお気に入り。どの話もそうなのだが、命や時代の終わりぎわに放たれるせりふや一文がひどく心に響く。

劉慈欣とケン・リュウはSFの中でもかなり上位にくいこんでおり、まだ読んでいない本もたくさんあるので、少し別の本をはさみ、『超新星紀元』などにすすみたい。

読んでくださり、ありがとうございます。SFは現実がつらくてもワクワクできてすきです。

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