◆独立記④「ぼくは三つ星シェフになれない」

前書いたように、「なんかもういられねえ」と思うと転職してしまったり、これまでいた友人関係を切ってしまったりしてきた。ただ、今回はそれだけではない。

前のところも含めると、今の業界には8年ほどおり、まあまあ慣れてきたよね、という段階になるのだが、どうも感覚としては頭打ちの感覚がある。年数にして5,6年目、今の職場になってから3年ほどの時期であり「いられないな」と感じ始めた時期とも重なる。この頭打ち感は、現時点ですでに伸び代がないというよりは「あとちょっと伸びそうだけど、最終的に求められる域に達するには元々の能力面で不足があるだろうな」という感じだ。いくら描いても絵が上手くならない人がいるのと同じである。また、いろいろな現場をみてきた中で、今の職場は段違いでスキルを要求される。これを「三つ星レストラン」としよう。

薄々そのことに気づいたとき、「どうしていこうか」という思いが出てくる。30代に入り、だいぶ経歴もウロウロさまよっているので、他の業界に飛び立つのは勇気が出なかった。また、言い方を選ぶ必要があるが、正直、今の職場ほど能力を求められない同業他社に移り住むことも選択肢としてはあった。しかし、そうなると紋切り型、いわばフランチャイズ的な業務内容に陥りやすく、退屈に耐えられなさそうで気が進まなかった。性格上、新規性や成長性のあることは「おもしろい」と感じられて、続けやすいので、今の職場もそこそこ滞在できているのだ。

結果として、行政書士という別の領域の資格をとってみることにしたのも、まずは表面で認識している「ここにいるのがきついな」という思いからだが、振り返ると、自身の能力に対する危機感が根底にあったのかもしれない。実働していないので机上の空論にすぎないが、これは最適解のひとつといってもよいような気がしている。

今いる業界と、行政書士のフィールドについて調べてみると、双方を組み合わせながらできることがある。たとえば成年後見などはそうだし、社会貢献性も高い。一方で、今の業界で司法のセンスを持ち合わせている人は決して多くなく、行政書士サイドにも同じことがいえる。また、「どちらにもいて、どちらにもいすぎない」というのは、自分の生き方のスタンスとして、ずっと滞在するということがなくなっていくので向いているかもしれない。領域同士をむすび、循環をよくしていけるような立場として立ち回れれば、三つ星でもなくフランチャイズでもない、たとえるならば「食べログ3.3くらいの、ちょっと駅から離れた個人店」だろうか。自分としては、そこを目指していく感じになるのかなと思っている。

そういった経過があり、連関のある分野からまずは学んでみている。ほんとうは国際系の業務なども関心があり、勉強をしたいのだが、それは今のしごととの接点を見出しづらく、強みとして押し出しづらいので、泣く泣くあとまわしにした。また、今からはじめて、うまくいけば、もう少しやってみてあとひとつできることが見つけられると、ちょっといいなと思う。だいぶ前に「パラレルキャリア」という言葉がもてはやされていたことがあって、弁護士をしながら小説家とか、医者をしながら作家とか、2枚の名刺で生き抜いていこうというような言説があった。すべての人がそうする必要はないと思うが、上でふれたように独自の売りを作りやすいことと、自活する手段をいくつかもっておけばリスクヘッジにもつながり、ようやくその言葉の真髄に触れることができたように思われる。

どちらの領域も学ぶことは楽しく、新しいことが日々起こるので退屈せず過ごせている。一時的に忙しくなることは必至だが、軌道に乗った頃には余暇とのバランスをとれるようなかたちで着地したい。

読んでくださり、ありがとうございます。10代、20代で開花できる人のすごさを改めて実感するわけですな。

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