◆『九条の大罪』第50審「愚者の偶像❶」

今週のお話

夜の繁華街を歩く九条と烏丸。京極の紹介された案件を受けるようになって以来、予約しないと取れないような高級料亭に行くことが増えたと烏丸がふりかえる。ということは、以前電話で受けた京極からの紹介を、受けているということだろう。そこで烏丸は、着手金について、相手を見て上げてみてはと提案するが、九条はどんな客でも着手金が一律33万であるのがよいのだという。

横断歩道を渡ったところで、小山と合流する。どうやら会社を買収できたお礼の会食のようだ。烏丸がもともといた弁護士事務所ではM&A(企業の吸収合併)の専門部署にいたのを知り、上機嫌だ。そこに、第1審で出てきた「日本一のたこ焼き屋」の看板がある。「事件の真相」編でも出てきた気がするが、。まだ検証していないようだ。

場面は一年前にさかのぼり、若い男女がラブホテルにいる。俳優志望の門脇数馬と、歌手志望の音羽千歌だ。数馬はスマホで『愛の不祥事』を見ており、千歌はそれが好きだというが、数馬は演技の参考に見ているだけのようだ。そこに千歌が、ホテルのベットが何人に使われてきたのかという問いかけをする。軽くいなした数馬は、リアリティショーのオーディションに受かったことを伝え、同棲を誘う。千歌は了承するが、番組の特性上、誰かと付き合う形になってしまうことに嫉妬してしまうという。ビジネスカップルだというが、嘘でも嫌なのだという千歌。それに対し、数馬はその後の自身が上り詰める未来を語る。それを聞いた千歌は、田舎から東京に出てきて現実を思い知ったという。数馬は「俺が成功したら結婚しよう。」とプロポーズし、千歌はそれを受け入れ、ふたり過ごすのだった。

そして時間は現在に戻り、Vタイツを着た数馬がお尻に花火を挿し、パフォーマンスをしている。どうやら今はサパークラブで働いているらしく、「元芸能」とアナウンスされていることからも、芸能界はおりたようだ。そのパフォーマンスを白い目で見ている九条と烏丸、壬生、小山、そして見知らぬ女性。下品でクソつまらんと率直な感想を吐き捨てる小山に、九条と烏丸は朝が早いのでとお暇しようとする。小山は慌てた様子で、隣にいる女性(千歌)が女の子を呼んでいるので待ってほしいという。それどころか、千歌を差し出そうとすらする。

話を聞いていた千歌は「数馬?」と声をかけ、数馬が応答する。千歌はギャラ飲み女子になっているようだ。1年前にあった所在なさは感じられない表情である。小山の引き止めを遠慮する九条の言葉を聞き、場が台無しになったと小山。千歌に、数馬と知り合いかと問うが、千歌は壬生とも知り合いのようで、帰るあいさつをしている。千歌に小山のことを問う数馬だったが、小山に酒瓶で口元を殴られ、千歌と月20万で愛人契約をしていること、場を壊した罰にテキーラ一気飲み土下座で詫びろと迫る。壬生はその光景を冷ややかな目で見つめるのだった……。

感想

この33万というのは、単に安いからというわけではなさそうだ。何か根拠のある数字なのかと思い調べてみたのだが、あまり有力な情報が出てこなかった。とはいえ、破格であることに間違いはなさそうだ。そして、「どんな客でも一律で」というところは、以前でてきた、「依頼人を貴賤で判断しない」といっていたこととの整合性もとれる。九条が保障するのは相手の人生ではなく法的な手続きの部分だけだという前エピソードのやりとりをみれば、この金額についての考え方も理解しやすいだろう。本作は九条の弁護士としてのスタンスが形を変えて何度も出てくる。今回の一律33万も、スタンスのひとつといえよう。

さて、今回の中心人物となりそうな数馬と千歌だが、1年前は芸能界入りという共通の夢をもっていたふたりが、現在ではすっかり縁遠いところにいってしまっている。また、千歌については1年前の時点で、東京のパワーに屈してしまっている様子もみられる。この時点で、おそらく付き合っていたのだろうが、ふたりの関係には翳りがあり、会話も自然なようにみえて、どこかチグハグした印象を受けた。千歌は数馬の気を引くような言葉を投げかける一方で、数馬は自身の未来を明るく見通し、そこに千歌を乗せていこうとしている。受け入れつつも千歌は「数馬に嫉妬する」という。そこには恋人関係とは別の、芸能界をめざす者としての劣等感が垣間見えているような気がした。

数馬は、リアリティーショー以降のところはわからないが、今は芸能界を降りたようだ。千歌も千歌で、ギャラ飲みと愛人契約の二本柱で生計を立てているのに加え、「女の子を呼んでいる」というので、接待する女性を呼べるだけの立場にもあるようだ。また、壬生とも顔見知りということから、面倒があったときに世話になるような関係性にあるのかもわからない。愛人契約20万の価格についてだが、愛人契約の相場としてはまぁ普通といったところらしい。公式なデータに乏しく情報ソースの正しさがわからないが、そこまでびっくりするほど安いわけでもなく、高いわけでもないようだ。ただ、前エピソードの衣笠の話だと、女衒のようなことをやらされていたということもあるし、AVデビューという道も小山はとれるので、そこを考慮しての20万をどう捉えるか、といったところだろうか……。縁遠い世界なので具体的なイメージがわかない。いずれにしても、東京のパワーに圧されていた千歌が今の境遇に至ったきっかけは何だろう。歌にこだわるのであれば、とことんこだわっていけばよい。夢破れ、田舎に帰ればよい。そうではなく、東京に残り、愛人契約とギャラ飲みを生業とする生き方を選んだということは、この1年間のどこかで(もしくは1年前のシーンですでに)歌でなくともいい自身、何か別の目的を見出したからではないだろうか。たとえばお金や、キラキラとした世界に浸りたいといった欲求、それについては、今後語られることだろう。

千歌と数馬はこの1年で、お互いの様子を知らない状態になっていたようだ。別れたのかどうかは定かではないが、終盤の数馬の発言をみるに、きっぱりと縁を切って別れましたという感じではなさそうである。ふたりの関係性は1年で氷解してしまっているが、そこに何があったのだろう。想定通りに売れずに数馬が荒れていったのか、はたまた千歌が愛想を尽かしたのか、それともそこそこ順調にいっていたものの、何かトラブルがあったのか、想像は広がる。最後の壬生の目線も気になっていて、何か一枚噛んでいるような雰囲気もある。なんだろう。

今回のサブタイトルである「愚者の偶像」というのが、1年前にきらきらと語られていた芸能界入りの夢であったり、ふたりの理想的な関係だったり、そういったものにあたるのかな、といったところで、ウシジマくんの「楽園くん」編を思い出してしまった。なんにせよ、来週を待とう。

コメント

WP Twitter Auto Publish Powered By : XYZScripts.com